刑事ドラマに憧れて、は過去の話(写真提供/イメージマート)
事件現場に出たくない
公務員になるために警察官を目指すという若者が増えたのだ。「彼らは危険なことは好まない。希望するのは内勤の総務や交通部、生活安全部。少年らの相談相手になりたいという者もいた」という。
その反面、警察の花形だった刑事を目指す若者は、年々減少の一途をたどっている。元刑事のS氏は「防犯カメラや監視カメラ、車載カメラが出たことで、自分の足で地道に証拠を探し回っていた時代より、刑事の仕事は楽になった。それでも刑事は、きつい、汚い、危険の3Kの仕事だ。昭和の刑事ドラマではそれがカッコよかったが、今の刑事ドラマは違うだろう。キレイな部屋で仕事をし、推理や謎解きが中心になり、プロファイリングして、スマートに事件を解決する。ドラマが描く刑事像も昔とはぜんぜん違う」。そう言われれば、昭和の時代に人気を博した「太陽にほえろ」(日本テレビ系)や「西部警察」(テレビ朝日系)のような泥臭い刑事ドラマは見なくなった。
コロナ禍を経験したことで新入社員の安全志向も強くなり、S氏も「事件現場に出たくないという者がますます増えている。警務部の中でも厚生課や健康管理本部に行きたいという者や、地域課で地域の指導をしたい、犯罪被害者のカウンセラーになりたい者もいたが、刑事になりたいという者は少なくなった」。
「それどころか」とS氏はため息をついた。「早く仕事を覚えて、きちんと業務をこなしてもらうために、今では上司が新入社員に『いつまでもできないなら刑事部に送るしかないか』というブラックジョークがあるらしい」。
刑事になるのが狭き門だった時代は過ぎ、人気がなくなってきたという刑事の仕事。前出のT氏は「人事1課を希望といえる新入社員もすごいが、ドラマに出てきた架空の課があると思い込み、そこの刑事になりたいと希望する者もいたと聞く」。ストレートに希望を伝え、物おじしない今の若者にT氏は「度胸があるというか、怖い者知らずというか」と少々呆れつつも、「その性格をぜひ警察官として仕事に生かしてもらいたい」と願っている。