50歳で「アンパンマン」を描き始めたやなせたかし氏(時事通信フォト)
現在放送中の連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)。高知県出身の絵本作家・やなせたかしさんと小松暢をモデルとした夫婦が様々な困難を乗り越え、『アンパンマン』を生み出していく過程を描いた物語だ。
やなせさんが『アンパンマン』を初めて世に送り出したのが1969年。当初は青年向け読物として雑誌に連載されていた短編の1作だった。誕生から50年以上経った現在、日本に知らない人はいないほどの国民的ヒーローへと成長した。その市場規模はなんと年間1500億円。日本の乳幼児向けキャラクターにもかかわらず、本家アメリカのスーパーヒーロー以上の売り上げを誇る“世界最強の「マン」”なのだという。
東京科学大学にてメディア論の教壇に立つ柳瀬博一氏の著書『アンパンマンと日本人』(新潮新書)より、国民的ヒーロー「アンパンマン」をキャラクタービジネスの観点から紐解く(同書より一部抜粋して再構成)。【全4回中の第1回】
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米TitleMax社が発表した2018年までの世界のキャラクタービジネスのビジネス規模を累計したランキングによれば、アンパンマンの累計市場規模は世界のキャラクタービジネスの中で、6位(602億8500万ドル)です。2019年の1ドル=109 円で換算すると6兆5710億6500万円となります。テレビアニメ化されてから30年で6.6兆円を稼ぎ出したことになります。
日本勢の中では、1位のポケットモンスター=ポケモン(921億2100万ドル)、2位のハローキティ(800億2600万ドル)に続き、3番目の規模です。アンパンマンより上位のキャラクターは、ポケモン、ハローキティ、ディズニーのくまのプーさん (3位750億3400万ドル)、ディズニーのミッキーマウス&フレンズ(4位705億8700万ドル)、スターウォーズ(5位656億3100万ドル)だけ。
アンパンマンは、もともとスーパーマンやバットマンといったアメリカンコミックスの正義のヒーローの“アンチテーゼ”としてやなせたかしが造形したキャラクターですが、アメコミの「マーベルコミック」は11位291億2800万ドル、「スパイダーマン」12位270億7800万ドル、「バットマン」 14位264億4800万ドル。ビジネス規模で比較すると、アンパンマンは本家アメリカのスーパーヒーローを抑え、「世界最強の『マン』」なのです。
TitleMax社の世界のキャラクタービジネスの上位1~25位のうち、日本のキャラクターは11もあります。1位ポケモン、2位ハローキティ、3位アンパンマン、8位スーパーマリオブラザーズ、9位少年ジャンプ、13位機動戦士ガンダム、15位ドラゴンボール、17位北斗の拳、20位ワンピース、23位遊☆戯☆王、25位トランスフォーマー(日本のタカラトミーと米ハズブロ双方で知財管理)と続きます。日本の漫画、アニメ、ゲームのキャラクターがいかにビジネスとして巨大な存在なのか、このデータを見てもよくわかりますね。
とりわけ、アンパンマンは非常にユニークな存在です。お客さんは日本の乳幼児が中心なのに世界トップクラスの経済圏を構築しているからです。たとえば、ディズニーやハリウッドのアメコミのヒーローたちは、世界中の全世代が対象です。にもかかわらず、ディズニーのお姫様より、アメコミのヒーローたちより、アンパンマンのビジネス規模は大きい、というのです。