“官能ルネッサンス”を謳う『艶想』
今年3月、プロ官能作家集団「与」が、官能文芸雑誌『艶想』を新創刊した。出版社から発行するのではなく、作家たちが有志で集い、「本当に書きたいもの」を書く、というコンセプトで“官能ルネッサンス”を謳う。同誌を創刊した官能小説家の佐伯香也子氏がその意図を語る。
「大学などにある文芸サークルみたいに、仲間と自由に書けたらいいなと、軽い気持ちからスタートしました。蓋を開けてみると、多くの作家さんが『書きたいものを書かせて』と手を挙げてくれて。お金では買えない、作家としての喜びがそこにありました。
私自身、官能小説を書いてきて、デビュー当初と違い、いつしか官能小説界は『母物』や『熟女物』ばかりになってきた。どの雑誌を開いても似たような内容で、これでは読者も飽きてしまう、と感じてきました」
同誌が掲げる“官能ルネッサンス”は、そんな業界に一石を投じる試みだ。「与」のメンバーは、技巧より「欲望のリアルさ」を重視する作家が中心となっている。
「本来、官能小説って人間の欲望や行動を深く描くものでしょう? 優れた作家はちゃんとした物語の中に、自然に官能を織り込んでいき、読後感のある作品を作り上げているんです」
現在の官能小説の問題点として、佐伯氏は男女の感覚の違いを指摘する。
「失礼を承知でいうなら、男性にとってセックスは『排泄』、女性にとっては『食事』なんです。男性は溜まったものを出すだけで満足できるかもしれないけど、女性は受け入れる側で、中身が悪いと消化不良を起こしてしまいます。この違いを理解せずに書かれた作品では、女性読者に共感されるのは難しいでしょう。だからこそ“官能ルネッサンス”が必要だったのです」
目指すのは、表面的な欲望描写ではない。人間心理の奥底にある真理に迫る作品だ。
「私たちの最終目標は、書きたいものだけを書きながら、『艶想』を書店の棚に並べることです。偶然通りかかった人が美しい表紙に惹かれて手に取り、『官能小説って、こんなに奥が深いものなんだ』と気づいてもらえたら最高ですね」
【プロフィール】
佐伯香也子(さえき・かやこ)/1960年生まれ、長野県出身。2000年にBL作家としてデビュー。2014年にマドンナメイト文庫にて『美人秘書監禁!甘美な拷問』を刊行して以降、同文庫を中心に活動する
取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2025年7月18・25日号