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【書評】『トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』 歌人・岡本真帆さん「二人のやりとりを読んでいるうちに、私の中にほんの少し勇気が灯った」

トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円

トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円

【書評】『トラとミケ 7 ~まぶしい日々~』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1540円

【評者】岡本真帆/歌人、作家。1989年生まれ。高知県出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』、2024年に第二歌集『あかるい花束』(ともにナナロク社)を刊行。最新刊は、自身の好きなものを短歌とエッセイで表現した『落雷と祝福』(朝日新聞出版)。

『トラとミケ』7巻を読んだ。49歳の杏子と、母の幼なじみであるサツキ。年齢も立場も異なる二人が出会い、友情を育んでいく物語が、今巻では静かに展開されていく。

 私は杏子に自分を重ねながら読んだ。人との交流に少し臆病なところに共感し、ページをめくるたびに、自分の過去の記憶や、これからの人生への思いがあふれ出していった。杏子の姿は、私の“人との距離の取り方”にまつわる記憶を呼び起こした。

 昔から、なぜか仲良くなりたいと思った相手とはうまくいかない。相手から自然に近づいてくれたときや、こちらが何も考えていないときの方が、関係が長続きすることが多い。そんな不思議な傾向を、占いでずばり指摘されたことがある。驚いて「そうなんです」と強くうなずいた。それ以来、それが自分の真実のように思えて、いつしか信じ込むようになっていた。

 その思い込みが、自分を小さくしていたのかもしれない。もっと親しくなりたい気持ちはあっても、踏み出し方が分からず、成り行きに身を任せてしまう。来る者拒まず、去る者追わず。それも悪くはない。けれど、心は他者を求めているのに、傍観者のようにじっと現実を受け入れてしまう虚しさが、静かに私の中に寂しさを積もらせている。

 心をつかまれたのは、杏子が怪我をした場面だ。パートナーや子どものいない杏子は、「自分を助けてくれる人はいない」と心細さを募らせる。そんなとき、ふとサツキの存在を思い出す。人に頼ることに慣れない杏子に、記憶の中のサツキは、からりと晴れた日のように軽やかに言う。「あんこちゃんには私がいるじゃない」。ちょうどそのとき、サツキから連絡が入り、彼女は杏子の怪我を知るや、買い物袋を手にすぐ駆けつけてくれた。

 誰かと寄り添い合える関係は、年齢や立場を超えて築ける。二人のやりとりを読んでいるうちに、私の中にほんの少し勇気が灯った。これまで関わりを求めることを怖れてきたが、それは自分を守る殻でもあった。その殻を少しずつ緩め、手を伸ばしてみてもいいのかもしれない。

「私がいるじゃない」と言ってくれそうな友達が、私にもいる。友人の顔が思い浮かび、優しい気持ちが胸に広がった。私も、友達にとってのサツキのような存在でありたいと思った。

 最近、新しい街で暮らし始めた。まだ馴染みの場所も行きつけもない、まっさらな関係の街だ。湯気の向こうから笑い声がこぼれるような、「トラとミケ」のような店を、私も見つけたい。この街でも少しずつ、人と出会い、友達を作っていけたらと思う。

※女性セブン2025年9月4日号

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