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【書評】藤原新也氏『メメント・ヴィータ』 あらゆることに首をつっこみ〈生〉に接続されてゆく

『メメント・ヴィータ』/藤原新也・著

『メメント・ヴィータ』/藤原新也・著

【書評】『メメント・ヴィータ』/藤原新也・著/双葉社/2750円
【評者】角幡唯介(探検家)

メメント・ヴィータとは〈生を想え〉との意味だ。昔、著者が社会に定着させたメメント・モリ〈死を想え〉をこの時代にあわせて更新しようという意図だが、では〈生〉とは何なのか。

生前の瀬戸内寂聴、白土三平との交流や、故郷門司で続く老舗料亭の店じまいにたまたま立ち会った際の女将との会話がなつかしく回顧される。あるいは麻原彰晃の実兄満弘との間でかわされた緊迫感のあるやり取りは額に脂汗がにじみ出るようだ。

こうした言葉のひとつひとつからは相互が深く信頼していることをうかがわせる空気感が漂う。そしてその匂いをかぎながら読者は、人の生は結局のところ他者との関わりのなかにしか存在しないことをつよく感じる。

でも、それぞれの人生だけではなくて、今という時代と社会もやはり〈生〉なのだろう。著者独特の観察眼と分析力は本書においてますます鋭さを増しており、新聞をにぎわせた事故、世相や大衆の姿ひとつから現代日本社会がかかえこむ歪さというか病巣のようなものを取り出して見せる手腕の見事さは、唸らせるものがある。

ただ、それはかつてのような鋭さ一辺倒ではなく、どこかやさしさに満ちた目線で語られてもいる。つまりこの世の中がどんなふうに変化しようと、そこに人々の生の集積があるならそれはまぎれもなく命の声である、と世界の森羅万象を肯定し、包み込んでいく大きさがある。

なぜ著者が長きにわたり表現の世界で第一線を張れるのか、その秘密をのぞき見た気持ちにもなった。道路の脇で甲高く鳴く七面鳥の小屋があったので他人の家に侵入して観察していたら、そこが白土三平の家だった、という逸話はその典型だ。この人の人生はそんなことの連続なのだろう。あらゆることに面白がって首をつっこみ、そこから〈生〉に接続されてゆく藤原新也の姿が何より面白かった。

※週刊ポスト2025年9月19・26日号

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