観光地にもなっている大阪・道頓堀にあるグリコの看板。その下に位置する川沿いに若者たちが集まり「#グリ下界隈」などと称するようになっていった(写真提供/イメージマート)
東京・歌舞伎町といえば、劇場、映画館、風俗店、飲食店などがひしめく世界有数の歓楽街である。不良風の若者が集うのはごく自然なことにも思えるが、実は東京だけでなく、大阪や名古屋、福岡などの大都市にも同時多発的に「トー横」に似た溜まり場が発生し、地元紙などが事態を問題視する記事を出しているほどだ。
愛知・名古屋では市中心部にある量販店のドン・キホーテ横にあった栄広場が若者の溜まり場となり「ドン横」と呼ばれた(閉鎖済み)。大阪・道頓堀の有名なグリコの看板の下は「グリ下」、福岡・天神の警固公園に集う若者は「警固界隈」などと称され、全国の大都市に、似たような若者の溜まり場が形成されていることが確認されている。さらに冒頭で紹介したように、少子高齢化や人口減少が進む小中規模の地方都市にまでも、「トー横」が形成されつつある。先のコンビニ店員がいう。
「公共の場所ですから、若者がたむろして酒やタバコを吸っているのは流石にまずいということで、市が、一時的に駐車場を閉鎖したんです。すると、今度は別の公園に移動した。そこでも注意され、いくつか公園や駅などを点々とした後、結局、ここに戻ってきちゃったんです。たむろしているだけなら、と思っていましたが、最近は警察沙汰になったり、ケンカのような声が聞こえてきたり、状況がおかしい。周辺住民も不安な気持ちです」(コンビニ店員)
若者を追い出しても何も解決しない
本家・トー横はもちろん、名古屋のドン横、大阪のグリ下でも、たむろする若者を排除する動きは見られた。しかし、パトロールする警察や行政の指導で一時的に若者たちは減るが、しばらくすると舞い戻ってくる。そもそも、彼らが夜な夜な集まっている場所は、多くの市民が利用可能な公共施設や共用施設として提供されている場所が多い。そういった施設の性格上、ずっと閉鎖しておくことは難しく、立ち入り禁止が解かれた途端に若者が戻ってくる、というのが現状だ。
東北・某市の歓楽街に建つビルの付近にも、やはりこの数年のうちに若者がたむろするようになり、周辺治安が悪化すると、付近の商店経営者などから状況を不安視する声が上がっている。このままいけば、トー横などと同じく、若者を排除することになるのかもしれない。だが、市の関係者は「排除よりも先にやることがあるのではないか」と疑問を呈する。
「未成年者が深夜まで集まり、酒を飲みタバコを吸っている状況は確かに看過できず、周囲にも影響が及んでいるため、なんらかの対応が必要です。ただし、東京のトー横のように、場所を閉鎖したり、若者を追い出しても何も解決しません。まずは、家や学校などに居場所がないと感じる子供たちがこれだけいることを、大人がしっかり受け止めなくてはなりません。しかも全国にトー横のような溜まり場がどんどん出来上がってしまっている状況で、親や周囲の大人たちにも大いに問題があるとしか思えない」(東北地方の市職員)
トー横をはじめとする各地の「溜まり場」は、テレビニュースやワイドショーなどで面白おかしく取り上げられ、その放送を見た若者が興味本位で現場を訪れ、そのままたむろし、犯罪に巻き込まれるパターンも多発している。「溜まるな」「非行に走るな」と一方的に若者を叱りつけるのではなく、彼ら彼女らが溜まる理由を、非行に走ってしまう原因を大人たちが考え、適切に対処していかない限り、各地にもっと多くの「トー横」が形成され続けるだろう。