ボールを「強奪」された様子が中継されてしまった少年は後日ホームランを打ったベーダー選手と対面、サイン入りのバットをプレゼントされた(フィリーズ公式Xより)
日本でも、プロ野球の試合中継で、過去にホームランボールをめぐる客同士のトラブルなどが放送され、それらのシーンは、中継から何年も経った現在でもSNS上で拡散され続けている。
「ホームランボールを取ったら、高い確率でテレビカメラに捉えられて中継されますし、ネットで何万、何十万と再生されますよ。興奮して下手なことしなくてよかったと思います。私が笑顔でボールを手にして、横で子供がそれを恨めしそうに見ている写真でも拡散されたら、そのシーンの切り取りだけで私は叩かれたかもしれません。でも結局、どのニュースを見ても僕のシーンは使われてなかったです(苦笑)」(都内在住の会社員)
キリトリと決めつけ
スポーツ中継で観客席が映し出された際、それが不倫中のカップルだったとかお忍びでやってきていたVIPだった、などという話を耳にすることもあるが、思わぬところで生中継に映るリスクは、何の落ち度もない一般市民に及ぶこともある。男性は、たとえトラブルが起きていなくても、あたかもトラブルが起きたように切り取り、つまり編集された動画が拡散され誤解を呼ぶ可能性を危惧していた。そんなことまで怯えなくても、と思うかもしれないが、実際にそうしたトラブルは起きている。北関東在住の教員は、数年前、弟が同様の騒動に巻き込まれたと振り返る。
「サッカーをやっていた弟の高校が、ついに県大会準決勝まで勝ち進み、地元のテレビ局で中継されました。ただ、弟は残念ながらベンチ外で、スタンドから懸命にメンバーを応援していたんです」(北関東在住の教員)
試合中盤、相手チームのメンバーが負傷するトラブルが起きたが、その瞬間、映し出されたのは、満点の笑顔でグラウンドの方を指差し笑う弟の姿だった。直後に画面は負傷した選手に切り替わったが、このことが思わぬ不幸を呼び込むことになったという。
「弟が負傷した選手を指差して笑っているのではないかと、切り取られた映像と共にSNSに投稿されたんです。試合の最中に私が気がつき、炎上していると心臓がバクバクしたのを覚えています。のちに弟に確認しましたが、選手負傷で中断中に、弟はグラウンド内の選手にエールを送っていただけで、本人は撮影されていることすら気がついていませんでした」(北関東在住の教員)
投稿には「最低だ」などのコメントがいくつかついたものの、ローカル放送局の中継だったからか、炎上というほどまでは拡散されず、数日後に投稿自体が消えた。教員は「防ぎようのない事故だったと思うしかない」と語る。
テレビ中継だけでなく、ネット配信なども増えた昨今、自身が誰かに見られ、知らぬうちに世界中に配信されている可能性がある。そして、恣意的なキリトリ動画によって、いつの間にか炎上の当事者になってしまう危険性も高まっている。炎上させるのは、前後の脈絡など検証がないまま、炎を大きくする大勢のSNSギャラリーたちだ。誰でも不本意なネット炎上の当事者になりうるし、扇動者になる可能性もある。一寸先は闇と過剰に怯える必要はないだろうが、せめて、ただ騒動を起こしたいだけのキリトリに煽られることは避けたいものだ。