民事裁判は新井氏に165万円の支払いを命じた判決が確定している
「セカンドレイプの町」と言われ……
草津町役場3階、階段すぐそばにある町長室のドアはいつも開け放たれており、奥にある町長席の手前には来客用のソファが並んでいる。町長席の後ろはガラス張りだ。向かいには交番が見える。新井氏が「町長と町長室で肉体関係を持った」と主張している2015年1月8日の朝10時も、変わらず同じ環境だった。この町長室で黒岩信忠町長は取材に応じた。
「町長職を抱えながら戦うというのは多大な負担がありました。弁護士さんへしっかりと説明するために書面を作成したりすることもそうですが、5年にわたる民事裁判の費用は全額自分で出しました」(黒岩町長、以下同)
問題の電子書籍『草津温泉 漆黒の闇』(現在は発売中止)は、シリーズとして複数巻が刊行されていた。この書籍の存在を、町議や町長は把握していたという。新井氏による「性被害告発」が掲載された『草津温泉 漆黒の闇5』(同前)は2019年11月ごろに発表された。町長は当時、内容を確認後、すぐに警察に相談した。
「議員から電子書籍の内容について『新井氏が町長に性被害を受けたと書かれている』と報告を受けた時、あまりにも驚いてカツ丼を噴き出して、『冗談ではないか』と問い返しました。しかし本当にそのように書かれていたんです」
5年におよぶ長い戦いが始まる瞬間だった。新井氏の主張を取材した報道機関は、町長にも取材をしていた。そのたびに自身が潔白である旨を伝えてきたが、これが報じられないことも多々あったという。新井氏には翌月の町議会で懲罰動議が発令され、除名処分となった。
町長は新井氏とフリーライターの飯塚玲児氏を名誉毀損で告訴し、また両名に加え、新井氏のサポートを行なっていた中澤康治元町議を相手取り民事訴訟を提起する。そんな町長や町へのバッシングが強まる決定打となったのは、2020年12月に開かれた外国特派員協会での会見だった。町長と新井氏が出席した会見だったが、「黒岩町長から性被害に遭ったことは事実です」という新井氏の発言が国内外に広く報じられることに。「セカンドレイプの町」というワードもインターネット上に広まった。
「草津は知名度もある、その町長のスキャンダルだから面白い、と世間に思われたんだと思います」