『ウルトラマン』の初代スーツアクター・古谷敏氏(左)と元総合格闘家の前田日明氏
1966年の第1回放送から令和の現在も、絶大な人気を誇る『ウルトラマン』。その初代スーツアクターである古谷敏氏が、放送当時の秘話を語った『60年目のスペシウム光線』(小学館新書)が10月1日に発売された。熱狂的ウルトラマンファンだという元総合格闘家の前田日明氏が駆けつけてくれ、常に強大な敵と対峙してきた2人による貴重な対談が実現した。【前後編の前編】
ゼットンを倒すため格闘家に
前田:ウルトラマンといえば、今でも強く心に残っている戦いが2つあって。ひとつは古代怪獣ゴモラとの決戦!
古谷:大阪城を舞台にした戦いですね。
前田:ええ。当時、自分は小学2年生で大阪に住んでいたんですよ。あの頃は東京に行けば、絶対にウルトラマンに会えると思っていたんです。
古谷:地方の子供たちは、みんなそう信じていたんじゃないかな。
前田:毎回、東京を中心に物語が進むから、いつ大阪に来てくれるんだろう、と。そればかり考えていたら、1967年1月8日午後7時、いつものようにテレビのスイッチを入れると、見慣れた大阪の景色が映し出された。思わず“うわっ、来た!”と叫びましたよ。
古谷:待ち望んでいた瞬間が、ついに訪れたわけだね。
前田:はい。翌週の後編ではウルトラマンとゴモラが大阪城をぶっ壊すじゃないですか。だから、翌日に友達と大阪城まで行ったんです。あれだけ激しい戦いを繰り広げたのだから、何かウルトラマンの痕跡が落ちているんじゃないかと思って。
古谷:ベーターカプセル(変身アイテム)が落ちているかもしれないと思ったわけだ(笑)。
前田:でも、実際に行ってみると、大阪城はそのまんま。すぐに園内を掃除しているおじさんに「昨日、ウルトラマンとゴモラが戦ったせいで大阪城は壊れたんじゃないの?」って訊いたんです。そうしたら、おじさんはニコッと笑い「おっちゃんたち、昨日な、徹夜して大阪城を直したんやで」と言ったんですよ(笑)。
古谷:粋なおっちゃんだね。テレビの中で大阪城は壊されたけど、子供たちの夢は壊さないという心意気が素晴らしい。
前田:それは古谷さんを始め、当時のスタッフのみなさんにもいえるんじゃないですか。いくら子供とはいえ、心を激しく揺り動かされなければ、翌日に電車に乗り、大阪城まで行かないです。それぐらい『ウルトラマン』には空想と現実をごっちゃにさせるというか、境界線をぶっ壊すほどの制作現場の生き生きとしたエネルギーが満ち溢れていたんだと思います。
古谷:ありがたいね、そう言っていただけるのは。
前田:それからゼットンもね、心に残っています。
古谷:負けちゃったけど。そういえば、前田さん、ゼットンを倒して、ウルトラマンの敵を取ろうとしたんですって?
前田:実はそうなんです。悔しくて、絶対にゼットンを倒すんだと誓っていました(笑)。自分が格闘家を志そうと思ったのは、ウルトラマンがゼットンに敗れたことが、大きな要因のひとつだったのは間違いありません。