休館が続く瀬美温泉
「露天風呂の斜面の上、直線距離で50メートルくらい離れた雑木林のなかで、引きずられたと見られる遺体を発見しました。そのすぐ近くに、一頭のクマが佇んでいた。クマが遺体から5メートルほど離れた草むらに移動するのを待ち、猟友会の人間が駆除しました。
オスの成獣で、体長1.5メートル、体重は約80キロ。DNA検査の結果待ちですが、亡くなった男性を襲ったクマで間違いないと思います」
駆除されたクマは、冬眠直前にもかかわらず、かなり痩せていた。
「冬眠直前の栄養を蓄える時期ですが、駆除した熊の身体を調べたら、脂肪分が少ないことがわかりました。一般的に成獣の場合、5センチくらい身体に脂肪がついているものですが、それが全くありませんでした。木の実などは脂肪になりやすく、肉類はなりづらい。人を襲うまで、いったい何を食べていたのか……」
長く北上市の猟友会に所属している鶴山氏でも、今回の死亡事故には衝撃を受けたという。
「もともとクマの目撃情報はありますが、特に被害が多いという地域ではありません。むしろ、ここ最近は市街地のほうが出没情報が多かった。
しかし各地でクマ被害が続き、宿泊施設に注意喚起をしていました。そんななか、今回の事件が起きてしまいました。
どうしてもお客さん相手の商売である以上、クマを目撃した際に爆竹を鳴らすといった対処については、宿側もどこまでやれるか悩ましい現状もあります。それでもまさか露天風呂にクマが現れて人を襲うとは、誰も考えていませんでした」
JR北上駅から、山間を縫うように流れる夏油(げとう)川沿いの県道を車で30分ほど走ると、悲劇が起きた「瀬美温泉」に到着する。周囲は森林や畑が広がり、瀬美渓流を望む四季折々の美しい風景が楽しめる温泉旅館だ。少し離れた場所にキャンプ施設などが点在するものの、周辺に目立った集落などはない。
