『氷河期世代力 変化の時代を生きた私たちが、今だからできること』/吉野かぁこ・著
【書評】『氷河期世代力 変化の時代を生きた私たちが、今だからできること』/吉野かぁこ・著/花伝社/1980円
【評者】武田砂鉄(フリーライター)
大学を卒業して新卒で出版社に就職したのが2005年の春だから、就職氷河期の最後の世代に位置付けられる。自分たちの頃から良くなりました、とは言えないし、その一方で、自分たちよりもっと深刻だった人たちが少し上にいる事実もある。数年前、この世代を「人生再設計第一世代」とのネーミングに切り替えようとする動きがあったが、なぜ再設計が必要なのか、反省や検証は乏しかった。
就職氷河期世代の一人として、様々な立場の同世代にインタビューをした著者は、本のタイトルに「力」をつけた。話を聞いた人たちには「自分でなんとかする力」があった。でもそれは、「自分だけでなんとかしなきゃいけない」という自己責任と表裏一体だった。終身雇用・年功序列がまだまだ残っていた時代、新卒採用の入り口からはじき出されると、今とは違い、選択肢が限られてしまった。
氷河期をそれぞれに生き抜いてきた。細い道を歩み、なんとか現在がある。いくらだって理不尽を問えるが、これまではそんな時間さえなかった。ようやく語れるようになった。試行錯誤の末にたどり着いた現在地がたくましい。
そのたくましさには冷静さが宿っている。これは、社会からさほど歓迎されなかった世代特有のものなのか。コピーライターの女性が「なんとなく、社会に振られるという恐怖は常に抱いています」と言う。社会に振られたから、また社会に振られるかもしれないという疑い。確かに自分にもある。「もともとラクしてこなかった、ラクを知らない世代なんですよね」とも語っている。これまた、強い実感がある。
だからといって、恨み節を炸裂させているわけではない。可哀想な世代だよね、と簡単に片付けられるのが一番腹立たしい。ふざけんな。そうじゃない。読みながら力が出てきた。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号
