国内

大前氏 日本の税制改革に「タックスヘイブン化」必要と指摘

 菅民主党政権が、税制改革に向けて動き出した。だが、大前研一氏は、小手先の調整では、この国の企業や個人はますます疲弊するだけだと指摘する。いま必要なのは、大胆な発想の転換による「タックスヘイブン化」構想だというのである。

******************************
菅政権が「法人税引き下げ」を柱とする2011年度の税制改正議論を始めた。菅首相が法人税の実効税率(国と地方の税率の合計)引き下げを検討するよう指示したことを受け、年末までの税制改正議論の中で法人税は引き下げの結論となる見通しだ。

一方、消費税の引き上げについては、海江田万里経済財政担当相が「何年か遅れることになると思う」と述べるなど、議論を先送りする構えである。

しかし、法人税であれ消費税であれ、もはや日本の税制は税率をちまちまと上げ下げするだけの小手先の改革では何の効果もない。今こそ税体系そのものを抜本的に刷新し、この国を「タックスヘイブン化」すべきである。

なぜなら、すでに日本は「老熟国」になっているのに、税制はすべからく日本が成長過程にあることを前提とした途上国時代のままだからである。

戦後日本や現在の新興国のように人口が急増して右肩上がりの経済成長を続けている国では、労働人口がどんどん増え、企業が大きくなって収益を伸ばし、個人も昇給するから、企業の利益や個人所得に課税すれば税収が伸びる。そして高所得者には累進課税によって重い負担を課し、それを低所得者に回す。この発想は、高度成長期の日本にぴったりで理に適っていた。
 
ところが、今の日本では多くの企業が低迷している。個人の昇給も止まり、この先、所得が増える可能性は低くなった。そのうえ少子高齢社会になって人口は減り続ける一方だ。となると、これから所得税は税率を上げない限り大きく伸びることがないから、極めて効率の悪い税金になってくる。

法人税も効率が悪い。その理由は、まず、払わなくて済む仕掛けがたくさんあるため、捕捉率が非常に低いことだ。しかも、「経費」については税務当局が認めるかどうかを恣意的に決めている。また、実効税率が40.69%とアメリカと並んで世界一高いため、企業は生産・販売拠点の海外移転を加速している。

さらに、そもそもこの国にはマーケットとしての将来性がない。人口が減れば、おのずと消費が萎むからである。企業が、国内では適当にやって海外で一生懸命稼ごう、と考えるのは当然だろう。法人税収が大きく伸びることもないのである。

 したがって日本の税制改革は、途上国の税制から老熟国にふさわしい税制にどう変えるか、という根本的な議論をしなければならないのだ。 

※SAPIO2010年11月24日号

関連キーワード

トピックス

公選法違反の疑いで刑事告訴され、書類送検された斎藤知事(左:時事通信フォト)と折田楓氏(右:本人SNS)
“公選法違反疑惑”「メルチュ」折田楓氏の名前が行政SNS事業から消えていた  広島市の担当者が明かした“入札のウラ側”《過去には5年連続コンペ落札》
NEWSポストセブン
コンサートでは歌唱当時の衣装、振り付けを再現
南野陽子デビュー40周年記念ツアー初日に密着 当時の衣装と振り付けを再現「初めて曲を聞いた当時の思い出を重ねながら見ていただけると嬉しいです」
週刊ポスト
”薬物密輸”の疑いで逮捕された君島かれん容疑者(本人SNSより)
《28歳ギャルダンサーに“ケタミン密輸”疑い》SNSフォロワー10万人超えの君島かれん容疑者が逮捕 吐露していた“過去の過ち”「ガンジャで捕まりたかったな…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
反論を続ける中居正広氏に“体調不良説” 関係者が「確認事項などで連絡してもなかなか反応が得られない」と明かす
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄のコント集団「お笑い米軍基地」が戦後80年で世に問うた新作コント「シュウダン・ジケツ」にかける思い 主宰・まーちゃんが語る「戦争にツッコミを入れないと」
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン