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大震災 極寒の水に飛び込み逃げようとした約40人中3人生還

3月11日の東北関東大震災。2分近くに及ぶ震度5弱の強い揺れに驚くのも束の間、宮城県多賀城市はサイレンが鳴り響き、津波警報を告げるアナウンスが続いていた。少しでも高いところへ。流通会社に勤めていた男性・Aさん(28)は慌てて、海沿いにある会社のビルを駆け上がった。

「津波が来る!」

3階へと上りついたAさん。窓の外を見ると、目の前には大きな高波が迫っていた。ビルの1階部分は完全に泥水で満たされ、水没。幸い鉄筋の建物で流されなかったため、3階には命からがら流れついてきた、周辺に勤める工場作業員たち50 人ほどが集まった。

「隣のビルにいてベルトコンベヤーにつかまって何とか浮き上がった人、ガソリンスタンドの屋根に上がってそのまま流されて助かった人もいました。でも、そこは孤島状態。やがて日が暮れましたが、明かりは私が手にしていた懐中電灯だけでした」(Aさん)

携帯で必死に119番通報した人もいて、運よくつながったものの、“助けに行けないから自力で頑張ってください”といわれたという。

夜になっても、水はまだまだ引かない。そして午後10時半を過ぎたころ、闇夜に真っ赤な炎が浮かび上がった。次に、バーン!というものすごい爆発音とともに辺りが炎に包まれた。距離はわずか200メートル。近くにはガソリンスタンドがあり、ビルの下の濁流には石油を積んだ無数のタンクローリーが浮かび、水面にはそこから流れ出した油の膜が見える。引火したら、最後だ。

「危ないから、避難しよう!できるだけ遠くに逃げるんだ」号令をかけたのは職場の上司だった。

「躊躇する間もなく次々と水の中へ飛び込んでいきました。中央分離帯のあった高くなっている部分を選んで、流れてきた丸太につかまって火から逃げるように泳いでいきました」(Aさん)

最低気温マイナス2.5度の夜に、水の中。寒さは容赦なく体力を奪っていく。前を泳いでいた系列会社に勤める50代の社員は短くうめき声をあげて沈んでいった。

「丸太につかまったものの、丸太がぐるりと回ってしまうので、何度も冷たい水の中に顔が沈んでしまうんです。そのまま動けなくなってしまった人もいました…」

仲間が次々と消えていくなか、Aさんは「頑張れ! 丸太に上がれ!」そう声をかけ合うことしかできなかった。

「寒い…凍える…」

必死に泳いでいるつもりでも、振り返るとほんのわずかばかりの距離しか移動できていなかった。しかし、風向きの関係か火の手は会社のほうへは及んでいない。このまま前に進むか、再び戻るか。悩んだ末にAさんは会社に戻った。結果的にこの決断が生死を分けた。泳ぐのは無理、と会社に残っていた7人。Aさんと合わせて戻ってきた3人の計10人が無事だった。

※女性セブン2011年3月31日・4月7日号

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