ライフ

アンパンマンから日本人へ「なんのために生まれて生きるのか」

やなせたかし氏

 いま、被災地を駆け抜ける一陣の風がある。アニメソング『アンパンマンのマーチ』だ。震災直後にラジオで流されるやリクエストが殺到、動画サイト「You Tube」でも総再生回数は1300万回近くにも及ぶ。「深く染みて、目の奥がじんわりしました」「この曲の深さが伝わってきます」「生きることのメッセージが伝わってくる」。人々を勇気づけるこの歌はどのように誕生したのか、どのような想いが込められているのか。自ら作詞を手がけた「アンパンマン」作者で今年92歳、漫画界の大御所やなせたかし氏に、ノンフィクション・ライターの神田憲行氏が聞いた。

 * * *
――「アンパンマンのマーチ」が被災地などで大変な人気を集めています。作者としてどのような感想をお持ちですか。

やなせ:僕のところにも「被災地でラジオから流れ出した曲に合わせて子ども達が一斉に歌い出した」とか、いろんな反応が届いています。まさかこういう状況の中で歌われるとは、と驚いています。「アンパンマンのマーチ」はいつもアニソン(アニメソング)の人気投票では10番目くらいなんだよね。それがなぜ震災後に人気が出てきたかというと、「アンパンマン」自体が「人を助ける話」だからだと思う。一種の救援ソングなんだ。子どもたちを励ますことが出来て、とても嬉しいですよ。

――改めて聞いてみると、歌詞の内容も深いですね。とても子ども向けの歌とは思えません。

やなせ:そうそう(笑)。23年前に「アンパンマン」のテレビ放送が始まるときに僕がこの詩を書いたら、「子ども番組にしては難しすぎる」とテレビ局の人にいわれたんだ。でもどうしてもこの詩で行きたかったので押しました。

 歌はさきに三木たかしさんの曲が出来たんです。テープに吹き込まれた三木さんの鼻歌みたいなのを何度も繰り返して聞いているうちに、頭の中にパッと「だから君が行くんだ」という歌詞が浮かんだ。詩の最初から順番に浮かぶのでなく、ワンフレーズだけ最初に出てきたんです。僕の作詞はいつもそうなんですよ(注・やなせ氏は名曲『手のひらを太陽に』の作詞家でもある)。

「なんのため生まれてなにをして生きるのか」という歌詞は、当時、大学を出ても何をしたらいいのかわからない無気力な学生が増えていると聞いたので、子どものころから「何のため人は生きるのか」しっかり頭に叩き込んでおかなくてはいけないと思い、付け加えました。哲学的な意味があるので高校生や大学の先生からも「感動しました」とお手紙をもらったことがあります。

――確かに哲学的な示唆に富むフレーズが多いですね。

やなせ:「胸の傷が痛んでも」もね。これはアンパンというヒーローは他のアニメのヒーローと違い、いつも傷つくからなんです。バイキンマンに押しつぶされたりして、ジャムおじさんに「助けて」と弱音も吐いたりする。でも作り直してもらうとまた元気に飛び立っていく。そのアンパンが負う傷の全てを「胸の傷」で代表させました。苦しくても傷ついても、ヒーローは人を助けるために飛び立つのです。

 僕は物語を作るときも、歌を作るときも、子ども向け・大人向けとか区別していません。子どもも大人も一緒に感動しなくちゃいけない。だから歌詞が子ども向けにしては難しいと指摘されるのかも知れませんが。

――なぜ今回、子どもだけでなく大人の胸も揺さぶったのでしょうか。

やなせ:わかりません……作者でも。僕はそのときそのとき感じていたことを詩や漫画にしているだけなんですよ。「アンパンマン」も最初の童話は、大変評判が悪かった。なにしろボロボロのマントをきて、自分の顔を食べさせるヒーローなんかそれまでいないんだから(笑)。出版社の人からは「このような作品はこれきりにしてくださいね」と念押しされるし、絵本の批評家からは「こんな低俗な本は図書館に置くべきではない」とまで言われました。それが読む人の輪がだんだんと広がっていって、あれだけ人気のある作品にまで育った。「アンパンマンのマーチ」にしても、どのような思いを込めて聞くのか、聞く人の自由なんだと思います。


関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン