国内

六ヶ所村のエンジニア 「脱原発宣言で20年の苦労が水の泡」

菅首相の打ち出した「脱原発依存」により、国家戦略として進められてきた原子力政策は白紙に戻されることになる。これにより生じてくるのがプルトニウムの処理問題。この件について、大前研一氏はこう指摘する。

* * *
ドイツは2022年までに全原発の停止を決めたが、もし日本が同様に脱原発の年限を決定すれば、これ以上プルトニウムを保有する理由はなくなる。プルサーマル(※)を継続するとしても、いま保有している量で十分足りるからである。核燃料サイクルを行なう必要はなくなり、巨額の費用を注ぎ込んだ青森県六ヶ所村の再処理工場も不要になる。

だが、そもそも核燃料サイクルは、国家戦略として自民党と外務省と防衛省と経産省が阿吽の呼吸の中で長い時間をかけて構築してきた巨大プロジェクトの側面がある。プルトニウムを保有することで、90日以内に核武装ができる「ニュークリアレディ国」となることができ、核兵器を持たずとも「核抑止力」の効果を得られるからだ。そのために原子力政策を推進し、プルトニウムを蓄え、「もんじゅ」などの高速増殖炉を建設してきたのである。

それが菅首相の「脱原発依存」宣言により、一瞬にして吹き飛んでしまった。もちろん、国民に黙ってそんな姑息なことをしていたのだから、それでも構わないという意見もあるだろう。

しかし、あの宣言で崩壊したものはあまりにも大きい。六ヶ所村の再処理工場に関わっている原子力エンジニアは「懸命に地元を説得し、ようやく来年は本稼働にこぎつけるところだったのに、すべてが水の泡になった。自分たちの20年の苦労は、いったい何だったのか」と悲憤慷慨していた。

※プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を通常の軽水炉で利用すること

※週刊ポスト2011年8月19・26日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン