国内

『運命の人』モデル西山元記者 ドラマ内土下座シーンに怒る

 沖縄返還密約をめぐり元毎日新聞記者・西山太吉氏(80)が逮捕された事件を原作とするドラマ『運命の人』(TBS系)が現在放映中だ。この事件の背景に何があったのか、そして西山氏は今、何を考えているのか――。作家の山藤章一郎氏が迫った。

 * * *
<本社見解とおわび>「(機密文書を洩らした外務省の女性事務官と、持ちだすことをそそのかした本社記者)両者の関係をもって、知る権利の基本であるニュース取材に制限を加えたり新聞の自由を束縛するような意図があるとすればこれは問題のすりかえと考えざるを得ません。

 われわれは西山記者の私行についておわびするとともに、同時に、問題の本質を見失うことなく主張すべきは主張する態度にかわりのないことを重ねて申述べます」(1972年4月15日 毎日新聞)

〈西山記者〉とは、いま放映中の『運命の人』(原作・山崎豊子)の主人公である。1月末の第3回では、西山記者が逮捕された。

 あれから40年、80歳の西山太吉氏は、九州・小倉のホテルのラウンジに現われた。

「1972年に、私は抹殺されました。ところがいまになって、国家の〈嘘〉〈密約〉のあったことが芋づる式に証明された。あのとき、メディアも国家も、個人をバッシングすることに血道をあげた。大事なことは、ほかにあったのです。アメリカとまともに正対していれば、その後の基地移設の問題も、防衛大臣のクビが次々にすげ変わる事態も、なかった。沖縄はなぜ問題をかかえ続けるのか。あのときの国家の〈嘘〉〈密約〉が原点なんです。

 当時アメリカは、泥沼化したベトナム戦争の戦費がふくらみ、火の車だった。そこへ、日本は沖縄の施政権を返還してくれたら、いまに換算すれば何兆円かのつかみガネを密かに払いますといった。アメリカは大喜び、このいびつな従属関係がいまだに続いているのです」

 ラウンジで向き合って30分ほど経ったころの弁である。身を乗り出し、皺をきざんだ眉間を寄せ、テーブルを指の腹でなんども叩く。

〈沖縄密約問題〉とは、沖縄がアメリカから日本に返還されるにあたって、本来アメリカが負担すべき沖縄の原状回復にかかる費用を日本がつかみ金として払うという〈密約〉だった。のちに合計6億8500万ドル、いまに換算すると3兆円を越すことが分かった国家の〈嘘〉の氷山の一角であった。

 これがいまに続く〈おもいやり予算〉の始まりでもある。このことは、極秘電信文だけに記されて、公けにならなかった。

 冒頭の毎日新聞の〈本社見解〉は西山記者がその文書を、女事務官を介して手にいれた経緯を指す。この「男女関係」によって、大きなテーマである「知る権利」が、矮小化され、やがて〈密約問題〉そのものが先細った。

 毎日の〈見解〉が載った同日、朝日新聞「素粒子」には「西山記者ら二人を起訴。取材方法にのみ集中し、報道の自由の本質を離れることを恐れる」とある。

 だが、危惧のとおりになった。「国家公務員法・教唆の罪」に問われた西山氏の判決は二転三転したのち、最高裁で有罪が確定した。敗戦国日本に代わってアメリカが施政権下に置いていた沖縄の「返還」が成ったのは西山氏逮捕から1か月後の5月15日だった。

 それでも、権力に抗する西山氏のもとには、共感と声援が寄せられていた。

「メディアは抹殺したが、事の本質を見ている人は少なからずいました。単純にいえば、アメリカは俺たちがお前を守ってやる、だからいうことを聞けといったのです。普天間もこの構造上にある。あの〈密約〉から、日本全体がアメリカの支配下に入った。いまにしてなお〈普天間〉を解決できないのは、あのときの〈隠ぺい〉と〈曖昧〉に依るものです。この40年、なにも変わらない」

――そのあいだ、ご実家の青果商を手伝われながら、活動や裁判に東奔西走され、山崎豊子さんが『運命の人』を書きました。いまのテレビドラマを見ていますか。

「あまりにフィクションが多いので、ほとんど見ていない。人から伝え聞いたが、私が安川審議官だか、大平正芳(当時・外相)に土下座するシーンがあるらしいが。なんで、彼らに謝らなきゃいかんの、私が。山崎は、大衆小説で多くの人に読ませるために手練手管を使うわけだ。刺戟して好奇心を煽って読者を増やす、視聴率をあげる、〈密約〉の本質はますます遠ざけられるというわけだよ」

――この40年、ご家族の支えが。

「家内ががんばって子どもを育ててくれて、それで、今日までこられたというのが、あれよ」

※週刊ポスト2012年2月24日号

関連記事

トピックス

世界中を旅するロリィタモデルの夕霧わかなさん。身長は133センチ
「毎朝起きると服が血まみれに…」身長133センチのロリィタモデル・夕霧わかな(25)が明かした“アトピーの苦悩”、「両親は可哀想と写真を残していない」オシャレを諦めた過去
NEWSポストセブン
人気シンガーソングライターの優里(優里の公式HPより)
《音にクレームが》歌手・優里に“ご近所トラブル”「リフォーム後に騒音が…」本人が直撃に語った真相「音を気にかけてはいるんですけど」
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン