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大阪二児遺棄殺人事件被告「世界一温かな家族に」が夢だった

 1年半前の夏に発生した大阪二児遺棄殺人事件の初公判(3月5日)が開始した。3歳の桜子ちゃんと1歳9か月の楓くんはなぜ死ななくてはならなかったのか。ノンフィクションライターの杉山春氏が母親の下村早苗被告を取材した時の様子をレポートする。

 * * *
 私は1年程前、大阪府警本部の接見室で早苗さんに会った。透明なアクリル板の向こう側に座った早苗さんは、灰色の上下のスウェットを着て、表情を消して、静かに座っていた。

「なぜ、会ってくれたのですか」

 そう尋ねる私に早苗さんはおっとりと答えた。

「子供たちの仏前にお菓子を供えてくださったと手紙にあったからです」

 それは我が子が受けた親切に丁寧に礼をいう、母親の物腰そのものだった。私は早苗さんとの接見の3週間程前、子供たちの遺骨がある早苗さんの元夫の家を訪ねていた。話を聞きたいという私に、40代の元舅は玄関先で「今はまだ、話せない」と言った。

 それでも遠路を気の毒に思ったのか、持参した菓子包を子供たちの仏前に供えると言ってくれた。その時のことを早苗さんへの取材依頼の手紙に書いていた。

 早苗さんはなぜ、子供たちを放り出さなかったのか。暗い穴蔵のようなマンションの一室に、扉の外側からガムテープまで貼って、子供たちを抱え込んだのか。男性に愛情を向けられ遊び回ることが最大の願いだったとすれば、子供たちは手放せば良かった。

 その答えは、私が見たDVDの中にあるのかもしれない。

 前号で早苗さんと父親を扱った約10年前のニュース番組を紹介したが、実は、その翌年に他局で撮られた「熱血親父への感謝状」と題された番組もある。

 そこで当時、郷里の四日市を離れ、東京の高校で一人暮らしをしていた早苗さんは父親を思いやって手紙を書く。

〈お父さんの離婚は非行に走った原因ではありません。私たち子どものための離婚でした。お父さんが一番つらかったはず〉

 中学時代の非行歴への悔悟を記したあと、さらにこんな言葉が続く。

〈私の夢は、いいおかあさんになることです。世界一温かな家族にすることです〉

 いいお母さん、立派なお母さんでなくてもいいと思えていたら、早苗さんは今、法廷にはいない。

――大阪府警本部で会った日、私はこう尋ねた。

「お子さんたちへ(冥福を)祈ることはありますか」

 早苗さんは答える。

「それはできません」

「まだ祈れないのですね」

 早苗さんは肯いた。

※週刊ポスト2012年3月23日号

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