宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
「敷地のあちこちに黒ずんだ血がこびりついていました。自分よりも2回りは大きいクマと戦った愛犬はいつもと違う様子で興奮していました。今でこそ綺麗になりましたが、背中に爪が刺さって穴が空いてしまい血がダラダラ出てしまっていた。大事に至らなくて本当によかったです」
東北地方を中心に各地でクマが連日目撃され、被害も相次いでいる。近くには山や森もなく、「クマ被害は自分とは縁がないと思っていた」と語る宮城県栗原市に住む高橋光太郎さん(41)。秋田犬と暮らす高橋さんの自宅にクマが現れた緊迫の1日について話を聞いた。【前後編の前編】
10月19日深夜、岩手県栗原市の自宅のリビングで娘と一緒にテレビを眺めていたいつもと変わらぬ1日の終わり。まさか自分がクマ被害の当事者になるとは予想もしていなかったという。
「娘が『テツの鳴き声がおかしい』と私に言うんです。確かに、外でテツが吠えていたのですが、『ワンワン』っていう鳴き声だけじゃなくて、何かに攻撃されている時のように『キャンキャン』と言う鳴き声も混じっていた。それが交互に続いていて、そんな鳴き声は今まで聞いたことがなくておかしいな、と」(同前)
“テツ”は秋田犬の中でも希少価値が高いとされる「虎毛」という品種で、本名は鉄雲(てつくも)という。体高は70センチ以上、体重は43キロと恵まれた体格を持ち、現在6歳だ。「家系図」もある由緒正しい血統で、知人のブリーダーから「秋田犬を広めたい」という思いから譲り受けた、高橋家にとって2代目の秋田犬なのだという。
初対面の記者を前にしても、テツは非常に静かで穏やかだ。自分より弱い相手には手を出さないといった「絶対王者」の風格すら感じる。
「たとえば他の犬に吠えられると、だいたいの犬って吠え返しますよね。でもテツは根っからプライドが高いので、『そんなに吠えたって、どうせ俺には勝てんだろう』って顔をして、強さをひけらかすこともなく、吠え返さないんです。近所でタヌキに鼻を引っかかれても対抗しない。本当に穏やかなんです。
だからクマと闘うまで、本当のところは強いのかどうかも分からなかったんです」(同前)
そんな無闇に吠えることがない穏やかなテツが、19日23時50分ごろに悲鳴のような声を発していたため、高橋さんは娘と外を確認しようと玄関に向かった。
