国内

被災した宮城の“猫の島” 災害基金で牡蠣養殖、漁業を再開

 その日、海に出ていた牡蠣漁師の尾形千賀保氏は、海上で島がブルブル震えているのを目撃したという。やがて津波が“猫の島”と呼ばれる人口70人の田代島を襲い、島の主幹産業だった数百を超える牡蠣養殖棚が全て失われるなど、壊滅的な被害をもたらした。

「今回の震災では、ほかの地域に比べ、離島への支援が大幅に遅れていた。さらに、島の漁師は高齢者が多く、収入源である牡蠣養殖の復興が難しいことは目に見えている。こんな時こそ、島が好きで移り住んだIターン組が何とかしなければと思ったのです」

 こう語るのは、8年前に移住し、田代島で民宿を営む濱温(ゆたか)氏。そこで濱氏は、島のもう一つの収入源となっていた “猫”の力を借りることを提案し、一口1万円の災害基金「にゃんこ・ザ・プロジェクト」をメンバーと共に立ち上げ、昨年6月に活動を開始した。

 全国の猫ファン、田代島ファンの反応は素早く、たった3か月で目標金額の1億5000万円に到達したという。

「震災前は、たくさんの観光客が猫に会いに来てたけど、我々漁師はあまり接する機会がなかった。その人たちが島を助けてくれる存在なんだと、改めて気付かされました」(尾形氏)

 基金は島の牡蠣養殖や漁業の再開に必要な資材購入などに充てられる。出資者にはオリジナル猫グッズのほか、牡蠣養殖が復活した暁には特産の島牡蠣が送られる予定だという。

 もちろん、基金は猫のためにも使われている。獣医が定期的に島を訪れ、1匹ずつカルテを作成して健康管理をしているおかげで、震災後100匹を切った猫は130匹まで増えたという。

「プロジェクトを通じて濱さんのような移住者と深く知り合えたのが一番の収穫のような気がするなぁ」と漏らした尾形氏。意外にも、これまでIターン組と島の古い住民同士が親交を深めるような付き合いはなかったという。

 島を愛して移り住んだ移住者と、全国の“猫の島”ファンの力を得て、小さな離島は復興へと歩み出している。

※SAPIO2012年4月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
チームを引っ張るドミニカ人留学生のエミールとユニオール(筆者撮影、以下同)
春の栃木大会「幸福の科学学園」がベスト8入り 元中日監督・森繁和氏の計らいで来日したドミニカ出身部員は「もともとクリスチャンだが幸福の科学のことも学んでいる」と語る
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
お笑いコンビ「ガッポリ建設」の室田稔さん
《ガッポリ建設クズ芸人・小堀敏夫の相方、室田稔がケーブルテレビ局から独立》4月末から「ワハハ本舗」内で自身の会社を起業、前職では20年赤字だった会社を初の黒字に
NEWSポストセブン
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン
「オネエキャラ」ならぬ「ユニセックスキャラ」という新境地を切り開いたGENKING.(40)
《「やーよ!」のブレイクから10年》「性転換手術すると出演枠を全部失いますよ」 GENKING.(40)が“身体も戸籍も女性になった現在” と“葛藤した過去”「私、ユニセックスじゃないのに」
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン