2010年1月の経営破綻から2年8か月、業績をV字回復させた日本航空(JAL)が東証に上場申請し、この9月中の「再上場」を目指している。
この動きに心穏やかでないのがライバルの全日本空輸(ANA)だ。2012年3月期の最終利益はJALが過去最高の1866億円を記録したのに対し、ANAも過去最高益ながら281億円止まり。生き残ったANAが“死に体”だったはずのJALに大きく水をあけられた。再上場はさらなる競争の激化を呼ぶ。
水面下のJAL、ANAの政・財・官界をも巻き込んだその戦いを本誌は両社関係者に加え、政界、財界などに幅広く取材を尽くした。両社のやり合いのニュアンスを読者にリアルにお伝えするため、本誌編集部内でJAL派とANA派に分かれてディベートを行ない、その様子を本原稿として構成した。くれぐれも明記しておくが、両社の当事者が実際に直接論争を展開しているわけではないが、内容はすべて取材で得られた情報である。
JAL派(以下、J):ANA派はJALが国策で救済されて不公正と決めつけるけれど、本当に身を削ってきた。例えば給料は3分の1もカットした。45歳で年収800万円だった地上総合職が今や500万円。パイロットは1900万円程度あったのが、いまは1450万円ぐらい。ANAはいまだに2000万円くらいあるでしょう? ちなみに中国のLCC(格安航空会社 ※下記注参照)の春秋航空のパイロットは1500万円ほどだから、JALはそれより低い。
ANA派(以下、A): ANAの3分の2ぐらいの感じだね。ただ、今夏のボーナスは高かったはず。昨年33万円(38.1歳、組合員平均)だったのが、今年は67万円でしょ?
J:パイロットが出発地に移動するときの座席も、JALはエコノミーだけど、ANAはビジネスを使える。そもそもJALは会長も社長もエコノミー移動だから。
A:別にいいじゃない、そんな細かいこと(苦笑)。社長がエコノミーだなんて、パフォーマンスにしか見えないよ。
J:(目を吊り上げて)パフォーマンスなんかじゃない! 例えばパイロットと客室乗務員(CA)のパーディアム(宿泊時の補助金)は1泊4000円。以前は、いまのANAと同じぐらいで、パイロットで7000円あったのを削った。
A:でも、社員向けの無料航空券は最近になって復活させたでしょう?
J:たしかにこの4月1日から「スタッフトラベル制度」を始めている。でも、国内なら無料搭乗はたったの年間4片道まで。ANAは国内なら無償搭乗が50片道でしょう? うらやましさ半分、他人事ながらいまだにそんなことしてて大丈夫なのって心配になる。
A:余計なお世話だよ! JALこそ、そういう不満がたまってるからパイロットやCAがどんどんやめていく。ベテランのパイロットがどんどんLCCに移っていて、LCCの社長が「パイロットはJALのベテランばかりだから安全です」とウリにしていた。
※注:LCC/格安航空会社(ロー・コスト・キャリア)の略。国内系LCCは3月1日に運航を開始したANA系のピーチ・アビエーション、7月3日のJAL系のジェットスター・ジャパン、8月のANA系のエアアジア・ジャパンがある。
※週刊ポスト2012年8月10日号