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安倍、小泉、石原、橋下の言葉を井沢元彦氏と大下英治氏分析

「安倍さんは非常識だ」「非常識なのは野田さんのほうだ」――子供同士の口喧嘩と見紛う両党首のやり合いを見て、かくも政治家の言葉は軽くなったかと痛感する人は多いだろう。政治と歴史を知り尽くす作家の大下英治氏と井沢元彦氏が、「リーダーの言葉」をめぐって緊急対談した。

井沢:小泉(純一郎)さんは、短くコメントをまとめるのが抜群にうまかっただけでなく、使う言葉も非常に計算されていた。

 先日、安倍(晋三)さんは「私が政策を発表しただけで株価が上がった」と自画自賛しましたが、かつて小泉さんは「株価には一喜一憂しない」といっていた。安倍さんは、株価の上昇を自分の手柄にすれば、下がったら今度は「お前のせいだ」といわれると気づいていない。

大下:小泉さんが使うのは“攻撃的言語”なんです。たとえば、小泉さんは「郵政を民営化すればバラ色だ」といいますが、これをライバルだった加藤紘一さんがいうと、「郵政民営化にはこういうメリットがありますが、一方でこんなデメリットもあります」と両論併記になってしまう。加藤さんのほうが知性的ですが、小泉さんは物事を単純化してスパッと語るのでパワーがある。

 最近の政治家でこういう言葉を操れるのは、石原(慎太郎)さんや小沢(一郎)さん、橋下(徹)さんあたりでしょうか。

井沢:安倍さんは小泉さんを参考にしているようですが、成功していない。

大下:安倍さんは一所懸命なんだけど、残念ながらいい“役者”ではない。小泉さんは、自分に酔いながらも一方では醒めていた。金融発言にしても、安倍さんは本当に熱くなってしまっているでしょう。

井沢:ただ、私が安倍さんの発言で評価しているのは、「国防軍」という言葉を公で使ったことです。孔子は、政治の責任者になったら最初に何をするかを問われ、「まずは名を正さん」と答えた。安倍さんも、まぎれもなく軍隊であるものを「自衛隊」と呼んでごまかしているのを正すといった。どうせならもっとアグレッシブにいってほしかったが。

大下:言葉が弱い。これは天性の問題で、橋下さんのほうがはるかに上手。

井沢:その橋下さんも、石原さんの太陽の党との合併を決め、メディアは「薩長同盟」だと囃し立てたが、薩長同盟というのは国が滅びるかもしれないという危機に際し、愛国という理念と近代化のための政策を共有し、大同団結を果たしたわけです。ところが、橋下さんは政策の不一致を問われ、「世間から見たらどうでもいいこと」といった。この軽さはないでしょう。脱原発が難しいのなら、「官僚支配の打破」を打ち出すなり、ワンイシューで大同団結するんだという姿勢を示すべきだった。

大下:石原さんが橋下さんと組んだのは、あわよくば首相になりたいから。いや、可能性がないわけじゃない。実は安倍自民は公明党を切りたい。公明党も本音では右寄りの安倍さんとは組めないでしょう。だから、安倍自民が公明の代わりに維新と組めば、かつての村山(富市)さんのように石原さんが首相になるチャンスが生まれてくる。

井沢:そうすると、安倍さんが「国防軍」と言い出したのは、公明が逃げ出すように仕向けるため?

大下:計算かどうかはわかりませんが、パートナーを変える流れが来たとは思っているはず。

井沢:そのシナリオで一つ良いのは、有権者が選びやすくなることですね。

大下 そう。維新は安倍自民とくっついて保守、民主が中道、公明の政策は小沢さんに近いので、第三極の革新に集まればいい。

井沢:もっとも、右・左、保守・革新という分類が日本ではねじれていますからね。普通の国で軍隊を持つというのは当たり前のことですが、日本では右だといわれる。社民党は「平和憲法死守」を掲げていますが、徹底的に現状維持しろといっているわけで、そういうのは保守という。むしろ憲法改正を訴える自民党が革新なんです。

 世の中が左に寄りすぎているからおかしなことになる。民主党が「中道」というのも、政権取るために右と左の寄せ集めで作ったからそういうほかないんでしょう。しかし橋下さんも、政策が二転三転して、右なのか左なのかよくわからない。

大下:だから、一番右の石原さんとも左に近い渡辺(喜美)さんとも組めるんです。ただし、渡辺さんは若いから政権は10年先でもいいと思っている。彼は政権公約、マニフェストといった言葉に手垢がついたから、「アジェンダ」という言葉を使い出した点でも面白いけど、アジェンダの賞味期限もたぶん短いでしょう(笑い)。

※週刊ポスト2012年12月14日号

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