芸能

『半沢直樹』成功要因に福澤諭吉・玄孫の大胆かつ繊細演出も

 作家・池井戸潤氏原作のTBS系連続ドラマ『半沢直樹』が好調だ。視聴率は初回の19.4%から第2話では21.8%へとアップ。このドラマの演出を手掛け、その魅力を最大限に引き出した立役者は、奇しくも主人公の半沢直樹が卒業した慶應義塾の創立者、福澤諭吉の末裔であった。

 本ドラマの演出を手がける福澤克雄氏は、幼稚舎から大学まで慶應に通ったというエリートで、小学5年からはラグビー一筋。高校時代には日本代表に選ばれ、大学では日本一に輝いた経験もある人物。

 卒業後はいったん富士フイルムに入社したものの、映画監督になる夢に近づくためにTBSに再就職したという異色の経歴の持ち主だ。しかも、母校である慶應義塾の創立者・福澤諭吉の玄孫にあたるというから、その出自からして、ハンパではない。

 TBS入社後は、『3年B組金八先生』(第5~7シリーズ)やキムタク主演の『GOOD LUCK!!』『MR.BRAIN』など数々のヒットドラマを手がけ、今や「日本で最も視聴率が取れるディレクター」とも称される福澤氏。そんな彼が今回手掛けるのは、出世争いや身勝手な企業の論理に振り回されるメガバンク行員の奮闘を描く企業ドラマだ。上智大学教授(メディア論)の碓井広義氏はその演出力に舌を巻く。

「ともすると複雑な話になりがちなテーマなのに、非常にわかりやすくできているのがこのドラマの見どころです。銀行の内部をリアルに描きつつ、同時に自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしている。まるで池上彰さんの絵解きのごとく、視聴者を飽きさせない工夫が施されていると思います」

 同番組プロデューサーの伊與田英徳氏は、福澤氏の手腕についてこう評する。

「福澤の演出はストレートで、それが突進力になっている。例えば、第1話の冒頭のシーンは、半沢の顔のアップからズームアウトする長いワンカット。普通はなかなかできない思い切った演出です。

 でも彼は“これから半沢直樹という人間の生きざまを描くんだ”という信念、覚悟でやった。今はいろいろな画をパパパッと撮っていくのが主流だったりするのですが、あえてこういうやり方で勝負するのが福澤らしさです」

 一方で伊與田氏は、福澤演出がもつ“繊細さ”も見逃せないと話す。

「例えば銀行員のエキストラを選んだ時も、全員、耳が出ている髪型の人に来てもらっていた。よく見ると、画面の奥のほうにいる人でも、ちゃんと耳が出ています。実際に銀行に行ってみたら、みんな耳が出ていたから驚きましたよ。よく見てますよね」

 かつて、「男はドラマを見ない」「ドラマのターゲットは、F1(20~34歳の女性)層」が常識とされ、“企業モノは受けない”というジンクスまであったというドラマ界。そのなかにあって『半沢直樹』が大ヒットしているのは、こうした大胆かつ細やかな演出ゆえかもしれない。前出・碓井氏が語る。

「福澤さんはこれまでにTBS日曜劇場の『南極大陸』や『華麗なる一族』なども手がけており、男のドラマの見せ方がうまい。それに加えて今回は、社宅住まいの妻たちの苦労も描き、企業ドラマでありながら、女性視聴者の共感も得られるような工夫が凝らされている。銀行という閉じられた空間だけの話にせず、周辺にいる人たちをきちんと描いている点も秀逸です」

※週刊ポスト2013年8月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《北島康介に不倫報道》元ガルネク・千紗、直近は「マスク姿で元気がなさそう…」スイミングスクールの保護者が目撃
NEWSポストセブン
娘たちとの関係に悩まれる紀子さま(2025年6月、東京・港区。撮影/JMPA)
《眞子さんは出席拒否の見込み》紀子さま、悠仁さま成年式を控えて深まる憂慮 寄り添い合う雅子さまと愛子さまの姿に“焦り”が募る状況、“30度”への違和感指摘する声も
女性セブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
「ローションに溶かして…」レーサム元会長が法廷で語った“薬物漬けパーティー”のきっかけ「ホテルに呼んだ女性に勧められた」【懲役2年、執行猶予4年】
NEWSポストセブン