ビジネス

伊藤忠の早朝残業「ホテルで仕事する社員が出てきそう」の声

 ワークライフバランス(仕事と家庭の両立)やダイバーシティ(職場の多様性)に対する意識の高まりから、定時に退社する「ノー残業デー」を設ける企業が増えた。

 これまで下着メーカーのトリンプや衣料品販売のしまむら、「無印良品」を展開する良品計画などは、残業ゼロを掲げても業績を落とさなかったケースとして大きく取り上げられた。

 企業にしてみれば、ムダな残業代を払わずに済み、業務の効率化にも寄与するのだから、こんなにありがたい話はないだろう。

 だが、働く社員は必ずしもノー残業をありがたがってはいない。

・無理やり帰れと言われても、仕事量は変わらないから近所のマンガ喫茶で残務処理をやっている(IT・30代男性)
・ノー残業デーは上司が帰るまで喫茶店で時間をつぶし、また会社に戻っている(流通・20代男性)
・土日のどちらかは週2日のノー残業で溜まった仕事を自宅でこなしている(エンジニア・30代男性)

 どれだけ日々の業務を集中してこなしても、プロジェクトによる仕事量の違いや繁忙期・閑散期のタイミングなどによって、残業が避けられない社員もいよう。それは各自の能力だけでは測れない。

 定められた時間帯の範囲内であれば、社員が自由に出社・退社時刻が決められる「フレックスタイム制」は、そんな個々の社員事情に則している。

 だが、昨年、フレックスタイム制を原則廃止し、今年10月1日より“朝残業”を始めたのが、大手総合商社の伊藤忠商事だ。

 商社といえば海外との取り引きも多く、午前様も当たり前の職業。それが午後8時以降の残業を禁止し、朝5時~9時の始業前に出勤した社員に割増賃金を払うという。その狙いは何か。同社のホームページにはこうある。

<深夜の残業は社員の疲労に加え、終了時間の区切りがないためにどうしても非効率になりがち。早朝時間帯であれば心身共にすっきりしており、また始業時刻が9:00と決まっているため、限られた時間の中でより効率的な業務が可能>

 震災後のサマータイム制確立や「朝活」ブームにも乗った働き方といえるが、人事ジャーナリストの溝上憲文氏は、こんな懸念を示す。

「フレックスタイム制で深夜の1時、2時まで仕事をして、午前10時以降に出社していたような人たちが、いきなり早朝勤務に生活リズムを変えるのはツライはず。割増賃金欲しさに朝5時に出勤するほど給料の安い人はいないと思いますが、自宅で残業できない場合は仕方ないですよね」

 他の中堅商社社員からは、こんな声も聞こえてくる。

「本社周辺のビジネスホテルにでも連泊して夜中に仕事をする社員が出てくるのでは? ホテル代は自腹だろうが、伊藤忠クラスになればたいした出費ではないはず」

 そもそも、残業時間を含めた労働時間の規制は、経済界や政府が掲げる労働政策の動きと逆行する。

「9時~5時といった就業規則にとらわれず、自由な時間に働けるようにと『裁量労働制』の拡大議論がこれから始まろうとしています。その流れからいえば、伊藤忠の朝残業は形を変えた労働時間の規制強化に他なりません。

 でも、サラリーマンにとって裁量労働制は時間に縛られない代わりに成果だけは求められる。しかも、サービス残業が増えるため、企業にばかり都合のいい制度になりかねません。そう考えると、まだ就業時間や残業時間がきっちり決められていたほうがいいのかもしれません」(溝上氏)

 長時間働かなければ出世できないという悪しき風潮は改めなければならないが、労働時間ばかりが削られて、仕事に対する対価が正当に支払われない仕組みになっても困る。

関連記事

トピックス

初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン
二刀流復帰は家族のサポートなしにはあり得なかった(getty image/共同通信)
《プールサイドで日向ぼっこ…真美子さんとの幸せ時間》大谷翔平を支える“お店クオリティの料理” 二刀流復帰後に変化した家事の比重…屋外テラスで過ごすLAの夏
NEWSポストセブン
左から広陵高校の34歳新監督・松本氏と新部長・瀧口氏
《広陵高校・暴力問題》謹慎処分のコーチに加え「残りのコーチ2人も退任」していた 中井監督、部長も退任で野球経験のある指導者は「34歳新監督のみ」 160人の部員を指導できるのか
NEWSポストセブン
松本智津夫・元死刑囚(時事通信フォト)
【オウム後継「アレフ」全国に30の拠点が…】松本智津夫・元死刑囚「二男音声」で話題 公安が警戒する「オウム真理教の施設」 関東だけで10以上が存在
NEWSポストセブン
9月1日、定例議会で不信任案が議決された(共同通信)
「まあね、ソーラーだけじゃなく色々あるんですよ…」敵だらけの田久保・伊東市長の支援者らが匂わせる“反撃の一手”《”10年恋人“が意味深発言》
NEWSポストセブン
鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン