左から広陵高校の34歳新監督・松本氏と新部長・瀧口氏
日本学生野球協会は9月4日、都内で審査室会議を開き、寮内で起きた集団暴力問題や中井哲之前監督のパワハラ問題で揺れる広島県の名門私立・広陵高校の53歳のコーチに不適切指導と報告義務違反で、8月21日から11月20日まで3か月の謹慎処分を下した。
8月21日という日付は、中井前監督とその長男である惇一部長の退任が発表された日である。
8月30日と31日に行われた秋季大会地区予選を前に、一連の問題を追及してきた私のもとに、ある情報が入っていた。野球部を離れたのは中井前監督および惇一部長だけでなく、他の3人のコーチも退任しているというのだ。つまり前体制のコーチで残ったのは、新監督となった松本健吾氏(34)だけということだった。
新チームとして初戦となる8月30日の柚木高校戦に20社30人という異例の報道陣が集まるなか、私は松本氏にコーチ陣の退任について質問するタイミングを窺っていた。だが、取材を取り仕切った広島県高等学校野球連盟は試合後の囲み取材を前にこう釘を刺した。
「質問の内容は本日の試合に関することだけでお願いします」
初回に広陵が8得点し、23対0(5回コールド)という一方的な展開となった試合内容に触れるべき点は少ないだろう。当然、最初に会見に臨んだ松本氏には、新体制に関する質問が集中した。しかし、青年監督は慎重に言葉を選ぶ……というよりも、余計なことを口にしないよう唇を震わせながら質問に答えていた。
「試合前は、選手に『いつも通りの試合をしていこう』と声をかけていました。今後も一戦一戦、一生懸命やっていこうと思っております。どなたからも応援してもらえるような野球部を目指していきたい」
野球部の暴力体質を改善したいとか、新たな伝統を築いていきたいとか、そういう前向きな話は皆無だった。唯一、会見に緊張感が走ったのは、騒動勃発後に寮のルールを変えるようなことはなかったのか──という質問が飛んだ時だ。
「特には……」
1月に集団暴力を受けた被害者A君の父親は、中井哲之監督の謝罪と共に、学校に対して再発防止策の徹底を求めていた。しかし、学校側に暴力事件の温床となった寮のルールを改善するような考えはまったくなかった様子だ。改めて広陵に質問状を送ると、「野球部の運営体制に関する取り組みについては、現在ある状況にとらわれず、また、内部の意見によるのでは独善的となるおそれがあることから、外部委員を交えた学校改善検討委員会の客観的なご意見を参考にする予定です」と回答。外部の意見に耳を傾けながら、改善すべき点を探していくという。