昨年9月には激しい内戦が続くシリアでアサド政権による化学兵器の使用問題が表面化した。オバマはその前から化学兵器を使うことは「レッドライン(越えてはならない一線)」だと明言していた。
当初はすぐにも軍事介入しそうな勢いでシリアを非難していたが、結局は議会の承認を得るとトーンダウンし、最後はプーチンが提案した国際管理下での兵器の廃棄という案に合意した。
アメリカ国内での行動とまったく同じだ。リスクを取って決断する力がないから、口にした言葉を実行に移すことができない。
シリアに対して武力行使すべきだったと言っているのではない。これはリーダーが自らの言葉に責任を持つかどうかという問題なのだ。指導者が全責任を負う覚悟で行動しなければ、リーダーシップなど発揮できない。
昨年10月、アメリカの経済誌フォーブスは「世界で最も影響力のある人物」にプーチンを選んだが、そんなランキングが出てきても仕方がない状況だ。
賛否は分かれるにせよ、アメリカが第2次大戦以降、「世界の警察官」の役割を果たしてきたのは事実だ。それによって秩序が保たれてきた国際情勢に大きな変化が起きる。残念ながらアメリカの他に「警察官」を任せられる国家は今の世界に存在しない。アメリカが武力介入の意思を見せないことで世界が平和になるのであれば問題ない。
だが、現実はその逆である。中国やロシアが野放図に勢力を拡大しようとする世界がやってくるだろう。国連やNPT(核不拡散条約)などの枠組みも、リーダーシップを発揮する国がなければ機能しない。警察官のいない混沌。「スラム街と化した世界」が我々を待ち受けているのだ。
※SAPIO2014年2月号