アクリフーズの農薬混入事件で逮捕された阿部利樹容疑者(49才)。非正規雇用者だった阿部容疑者の年収は200万円。犯行の動機を「給料など待遇面で不満があった」と供述しており、工場での仕事に加え、新聞配達もしていたという。
非正規はクビを切りやすいのはもちろん、賃金体系なども変えやすい。契約更新のたびにそれができる。阿部容疑者の場合、それは給与体系の見直しという形でふりかかり、さらに給料が下がった。2012年4月、それまでの「年功型」から「能力型」へと改められたのだ。それまでに、休憩から戻ってこないなど、工場でいくつかトラブルを起こしていた阿部容疑者は、3段階で「真ん中」の評価を受ける。ボーナスの額も減り、年収はさらに落ち込んだという。
有給休暇の買い上げや、遅番、早番の手当も廃止されたことで、不平不満はさらに溜まっていく。工場では、阿部容疑者が直属の上司に、待遇の改善を陳情している姿が度々目撃されている。
阿部容疑者が趣味に没頭していったのはこの頃から。家族のため、ローンのため、懸命に働いていた姿は一変する。近所の人たちが目撃したのは、「大人しくて地味」な阿部容疑者の奇天烈な姿だった。それと反比例するように、「明るくてよくできた奥さん」(近所の人)の姿は見かけられないようになっていった。夫の豹変に、妻はどうすることもできなかったのかもしれない。
それまでも新聞配達などに使うバイクには乗っていたが、阿部容疑者は2012年夏に青い大型スクーターを購入する。値段はおよそ70万円。改造にもお金をかけ、合計で100万円以上をスクーターに注ぎ込んだ。人気コミックのキャラクターを模して、背中に「正義」と書かれた白いロングコートを着て自慢のスクーターに乗る姿があちこちで見かけられるようになった。
珍しがって近づいてきた高校生との写真撮影には快く応じ、バイクを褒められると照れくさそうに笑う。ちょっとした有名人だった。阿部容疑者の心理を、法政大学教授・越智啓太さんはこう分析する。
「自分の仕事や待遇に満足しておらず、自分にはもっとすごい能力があると思っている可能性があります。プライドが高いせいで、自分への評価も高い。一方で、会社での存在感はあまりにもちっぽけ。その差が大きいあまり、『自分が正当に評価されていない』と不満を抱くようになったのではないでしょうか」
その不満も、バイクやコスプレがチヤホヤされると、一時的に解消する。だから、さらに趣味にお金を費やし、家計に回るお金は減っていくという悪循環に。アクリフーズ群馬工場の近くにある冷凍食品工場で働いていたという女性はこう語る。
「バイクやコスプレの趣味で、仕事で溜まった鬱憤を晴らしていたんでしょう? その気持ちは、すごくわかりますよ。単純に、立ち仕事っていうのも大変だけど、工場のラインっていうのは時間が流れるのがとにかく遅いんです。ベルトコンベアで運ばれてくる何千何万という冷凍食品を1日8時間、延々と梱包し続ける。それを毎日毎日繰り返していたら、気がおかしくなりそうで」
※女性セブン2014年2月20日号