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袴田事件再審決定 日本の警察優秀との意識浸透もそれは幻想

 袴田事件の再審決定(捜査当局による証拠の捏造まで指摘して死刑囚を釈放したのだから、事実上の逆転無罪判決と言ってもいいだろう)は、日本の司法に良心と良識が残っていたことを示した光明ではあったが、同時に、無実の人間が48年間も拘束され、死刑の恐怖に怯えて絶望的な人生を生きてきたことを想像すると、胸の詰まる思いを抱くのは誰しも同じだろう。

 袴田事件を「特異な例」「あるはずのない失態」と考えて一過性の“ブーム”に終わらせてはならない。女児誘拐殺人の罪で無期刑が確定し、後に無罪となった足利事件など、重大事件でも多くの冤罪が発覚しているが、それでも世間には「それらはごく一部のこと」と見る空気がいまだ強い。

 果たしてそうだろうか。疑う最大の理由は捜査当局の「見込み捜査」と正義感の問題である。長い間、日本の警察は優秀という定説が国民に浸透してきたが、それは幻想だ。殺人、強盗、強姦、放火など「重要犯罪」の検挙率はかつて8割台だった時代もあるが、現在では6割強になっている。一般刑法犯(自動車運転による犯罪を除外)全体では3割程度であり、これは統計方法が多少異なるものの、先進諸国のなかでも低い。

 日本の警察はいまだに“刑事のカン”で動き、しかも強固な官僚組織で上司の「見立て」に逆らえない風潮が残っている。そのため、捜査を主導するベテラン刑事が「俺のカンではAが怪しい」と言えば、その周辺ばかりが調べられ、そうでない可能性を潰してゆくという大事な過程が疎かにされて真相解明を妨げる傾向がある。

 それが冤罪にもつながる。いったん「見立て」を固めてしまうと、違った場合に捜査をスタート地点に戻せない。戻ったとしても初動捜査を怠っているから大事な証拠や証言が失われている。そうなると組織の失態、幹部の失態になるから、何が何でも見立て通りに結論を導こうとする。

 袴田事件だけでなく、過去には警察や検察が証拠を捏造した事件はいくつも起きているし(記憶に新しいところでは村木厚子事件がそうだった)、そこまでしなくても、取調官が恫喝や精神的圧力によって強引に自供を引き出して問題になった例は枚挙にいとまがない。

  捜査当局が「ほとんどの捜査は適法に正しく行なわれている」と言うなら、今すぐに取り調べの完全可視化(「部分」では意味がない。可視化されていないところで違法がはびこるからである)と、すべての証拠物の保存・公表を実施すべきだ(現在は当局に不利な証拠は裁判で開示されず、その存在すら隠されている)。また、自供したら釈放、否認したら嫌がらせのように長期勾留するような強権的対応も戒めなければならない(PC遠隔操作事件などが典型)。

 しかし、明らかに冤罪の袴田事件で再審を開始することにさえ反対する当局の態度を見れば、改革への期待はあまり持てない。

※SAPIO2014年4月号

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