それを見透かしたように、中国は今回の空爆に反対していない。中国とすれば、米国が中東の泥沼に引きずり込まれているほうが好都合なのだ。そうなればなるほど、自分がアジア太平洋で勝手気ままにふるまえるからだ。
もう1つ気になる問題もある。日本の集団的自衛権行使に反対している勢力は今回の空爆をどう見ているのか。彼らが声高に訴えていたのは「米国の戦争に巻き込まれる」という話だった。
それなら、今回の空爆にも当然、敏感でなければならない。だが、いっこうに「巻き込まれ論」が聞こえてこないのは、実は彼ら自身が「遠い国の話で日本が関与するわけがない」と思い込んでいるのではないか。
日本の関与がありえないと思うなら、そもそも巻き込まれ論自体が空想的で、ためにする反対論だったという話になる。集団的自衛権の話はまだ何も起きていない朝鮮半島有事での対応が焦点だった。だが、今回のイラクは実際に起きている現実である。
机上の話で大騒ぎしておきながら、現実に進行している紛争で黙っているのは、頭の働き方が「二重基準」になっている証拠だ。日本に近いとすぐヒートアップするが、遠い国だと「関係ない」と無視してしまうのだ。
だが、いつまでも知らん顔をしていられるかどうか。英国はじめ欧州は人道支援に加わる姿勢を示している。いずれ日本も役割を期待されてもおかしくない。抗争は長期化しそうだ。日本はどうイラク情勢に向き合うのか。積極的平和主義の内実が問われる局面である。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年8月29日号