ライフ

中島京子さん 江戸初期に実在の女大名の波瀾万丈一代記描く

 江戸初期の東北に実在した、女大名の波瀾万丈一代記『かたづの!』(集英社)を上梓した中島京子さん(50才)。初の歴史小説を書くきっかけとなったのは、江戸時代唯一の女大名・清心尼との出会いだった。

「大学時代の恩師がくれた学会誌を何の気なしにめくっていたら、『女の大名としては遠野に清心尼がいた』という一文が目に留まったんです。びっくりしましたね。戦国からまだ間もない時代、女性は男性を陰で支える存在だったはず。珍しいと思って調べていくと、どうもすごいリーダーだったらしい。昔と今では価値観が違うので、歴史上の人物にはどうしても距離を感じることが多いのですが、彼女のことは理解できる。そう思えたことが、書く原動力になりました」(中島さん・以下「」内同)

 女大名の信念と知性を象徴するのが、「戦でいちばんたいせつなことは、やらないこと」という台詞。

「とても地に足のついた見方、考え方をする人だったと思います。逆境に立たされても諦めずに、どうすれば家族や家臣、領地や領民を守れるか、考え抜く。例えば叔父の謀略によって八戸から遠野へ移封を命じられたことは、彼女にとっても家臣にとっても屈辱だったはず。潔く従ったのは、彼女らしい、現実主義的な決断だったと思います」

 しかし物語の語り部は、清心尼その人ではない。人間ですらなく、なんと一本のカモシカのツノだ。

「夫を亡くして、子を亡くして、父祖の地を追われる…清心尼の人生は困難の連続です。そのまま書くとどうしても重い話、暗い話になってしまう。書き始めて苦戦しているとき、遠野に片角様という神様が祀られていたことを知りました。そのご神体が、カモシカのツノなんです。片角様だったら、清心尼の壮絶な人生を、シリアスになりすぎずに語ってくれるんじゃないかと思って」

 清心尼に一目惚れして遠野まで追いかけてくる河童や、河童界の女親分も、物語にユーモアを添える。

「八戸や遠野に伝わるさまざまな伝説を、自分なりにアレンジするのは楽しかったですね。だから、歴史小説というより歴史ファンタジー、自分ではそう思っています」

 女大名の一代記は、女性活躍政策にも示唆を与えてくれそうだが、

「例えば、清心尼のお母さんもすごく頭のいい人だけど、タイプは全然違うんです。母娘関係を描きながら改めて思ったのは、女性の賢さも、女性の幸せも、決して1つじゃないということ。女性全員が優れたリーダーになるわけではない。数年前から温めていた題材なので、現政権の政策を意識して書いたわけではないのですが。エリートを優遇するよりも、働くお母さんの家事・育児・介護負担を減らし、女性の貧困に手を差し伸べる、地に足のついた政策を望みます」

※女性セブン2014年7月10日号

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン