「保育園が足りない」という不都合な現実は、自分や近親者が妊娠・出産するや、突如として立ちはだかる大きな壁だ。仕事を続けるか、それとも辞めるか。選ぶのはあなたであって、保育園の有無であっていいはずがない――保育の問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子氏がリポートする。
* * *
保育園入園激戦地の杉並区に住み、今、まさに「保活」の真っ最中のAさんがため息まじりに語る。
「妊娠中から、会社のお昼休みにはお弁当を早く食べて、とにかく通える範囲にある保育園ならどこでも電話をかけまくっていましたね」
それは産休中の今もなお続いている。
「保活」の第一歩は電話かけ。まずは電話で保育園の「見学」を予約するのだ。見学しなかったからといって入園できないことはもちろんないが、入園後の園と保護者とのトラブルを避けるためにも、自治体も見学を勧めている。
例えば川崎市の来年度の入園申請用紙には、希望する保育園の名前を書く欄の横に、園の見学をしたかどうか、チェックを入れる欄が付いているほどだ。
足立区内のある私立認可保育園にも「0才で入れたい、という人がこのところ毎日来ていますね」とK園長。見学に来た親たちに対しては、保育方針や園の決まり事などについて園長が丁寧に説明し、施設を案内する。
「以前は、『どんな保育をしているのですか?』と熱心に質問するかたがいましたが、最近は少なくなって、こちらから尋ねないと質問も出にくい。用事があって私が園にいない時には基本的には見学は受け付けないのですが、『園長はいなくてもいいので、施設だけ見せてください』とおっしゃるかたも増えています。
保育の内容について聞かなくて心配じゃないんでしょうか? 待機児童があまりに多くて入園が大変なので、“とにかく入れればどこでもいい”というかたが増えているのかもしれません」(K園長)
人気のある認可保育園には、連日、見学者が押し寄せる状態だ。1109人という日本一多い待機児童を抱える世田谷区のある私立認可保育園もそうだ。
「来年4月の入園に向けて、早い人では5月のゴールデンウイーク明けから次々に見学に来ていましたね」とS園長。普段の保育に影響が出るので、とても毎日の見学には対応できない。そこで9月までは毎月1回、地域の子育て支援で園を開放する日に合わせて、見学者を受け入れてきた。訪れたのは毎回、20~30人ほど。
「年度の後半になると見学者が増えてきます。来年度の申請も始まったので、10月からは月2回にしました。見学には来てほしいし、自由に保育の様子を見てほしいのですが、今の状況では現場の保育に差し支えます…」(S園長)
※女性セブン2014年11月13日号