【非正規は本当にかわいそうなのか】
3つ目の二項対立のテーマである「雇用」だが、基本的に「非正規=悪」の図式でメディアは報道しがちだ。その根拠は「格差」にある。ネット上では「若い頃勉強しなかったから悪い」といった自己責任論者と、「親の年収が低かったが故に満足いく教育を受けられなかった。批判はお門違い。支援制度が重要」といった意見がぶつかり合う。
これについてはとある調査が別の視座を与えてくれる。それは、総務省が1952万人の非正規雇用者を対象に「なぜ非正規を選んだか」を聞いた調査である。「自分に都合のよい時間に働きたいから」が全体の25.4%で最も多く、「家計の補助・学費等を得たいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」「専門的な技能等をいかせるから」「通勤時間が短いから」とあわせ、全体で約7割。
このデータをさらに読み込んだ東京新聞の長谷川幸洋氏は、週刊ポスト12月26日号でこう分析した。
〈「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由はどれくらいかといえば、実は17.1%にすぎない。非正規雇用者のうち転職希望者は22.9%に過ぎず、そのうち「正規の仕事がないから」非正規に就いていて転職希望となると148万人、全体の7.6%にとどまっている(2014年7~9月期平均)。
これらの数字が示しているのは、非正規雇用の大部分は自己都合であり「本当は正規で働きたい」という人は世間が思うほど多くはない、という現実である」
こうした意見があるものの、非正規と正規の格差解決については、「キャリコネニュース」に掲載された〈城繁幸、やまもといちろう、宮台真司が「非正規格差がカワイソウなら、正社員の待遇下げろ」で一致〉という記事が話題となり、一つの解決策であると多くの人から賛同された。
【二項対立を越えたその先にあるもの】
さて、ネットではいわば「外野」ともいえるべき存在の人々が罵り合い、傷つく人が出る。こうした二項対立はどうすれば回避でき、妥協点を見いだせるのか。前出・Hagex氏はこう提案する。
「阪神ファンと巨人ファンは妥協点を見つけることはできませんが、お互いファンとして尊敬することはできます。同様に、『二項対立』も妥協点を見つけることは困難ですが、『あなたの意見を尊重する』という態度をもって接することができます。そして、これがネット議論でのベストな着地点です。
しかし、ネットの『二項対立』は『鬱憤晴らし』という要素をも加わり、参加者は紳士たる振る舞いはできず、単なる口汚い罵りあいになってしまいます。健全な議論をするためには『鬱憤晴らし』のユーザーを減らすほかありません。ではどうすればよいか? 以下の3つが考えられます。
(1)サービスのシステムとして「鬱憤晴らし」ユーザーを参加させなくする(例:モデレーション機能、記名化、有償利用、ID評価制度など)
(2)「鬱憤晴らし」ユーザーの暴れる要素の1つに「知識不足」があげられる。ネット上の間違った知識、偏った意見に影響されているので、正しい知識・そして複数のソースから情報を得て判断するように促す・教育する
(3)生活・社会に対して不満を持つ人間を減らす」
意見が異なり過ぎる人々と容易に出会うことができるネット空間。完全に分かり合うことは無理であっても、「違いは認め、尊重し合う」――そんな姿勢をいかに持つかが我々には今求められている。