「糖尿病治療にはカロリー制限」という日本の医療の“常識”のおかしさを指摘した「週刊ポスト」前号(4月17日号)のレポートは大きな反響を呼んだ。カロリー制限を推奨する学会側の関係者からも「ポストの記事は正しい」と少なからぬ声が寄せられたが、そうした医師らに実名証言を求めると「それだけは勘弁してほしい……」と及び腰になった。間違いに気付きながら患者不在の医療を進めることほど罪深いことはない。
糖尿病学会に所属する専門医が、匿名を条件に口を開いた。
「週刊ポストの記事はもっともな内容だったと思いますよ。学会ガイドラインでの『カロリー制限推奨』やそれとセットになっている『糖質制限批判』はおかしいという声が内部にも結構あります。ただ、学会の重鎮の先生方を相手に、正面切っておかしいとはいえません」
前号で掲載したレポート〈糖尿病は「カロリー制限」では治らない!〉への感想だ。日本の医学会で食事療法として推奨される「カロリー制限」が世界から見ると時代遅れの手法であることを指摘した記事には、糖尿病と闘う患者のみならず、専門医から多くの賛同の声が寄せられた。
前号の内容を簡単におさらいしておく。日本糖尿病学会は『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』で食事療法としてカロリー制限を採用。身長や普段の仕事内容に応じて1日の摂取カロリーを定め、そのうち50~60%を炭水化物(糖質)から摂取することを推奨している。
一方、世界ではカロリーではなく「糖質」の摂取を制限するのが主流となっている。2004年には米国糖尿病学会が「カロリーを含有する炭水化物、たんぱく質、脂肪のうち、炭水化物だけが血糖値を上昇させる」ことを公式見解とし、医療従事者向けのテキストの記述を書き換えた。糖尿患者にとって大敵である血糖値上昇を抑えるには、カロリー制限ではなく糖質制限が必要との考え方である。
にもかかわらず、日本の学会は脂肪の摂取を減らすカロリー制限にこだわり、糖質の割合は多いほうが良いとの見解を維持してきた。
学会だけではない。
2005年に厚労省と農水省が定めた「食事バランスガイド」は健康維持のための食事構成を提示する。まず年齢や普段の仕事内容に応じて1日の総摂取カロリーを定め、その上で主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物それぞれの品目数をSV(サービング)という単位で示している。