通勤ラッシュ時の日本の満員電車は、多くの外国人にとってエキゾチックな観光スポットでもあるようだ。最近、以前にもまして急増している中国人旅行客にとっては、日本の電車に乗ることそのものが驚きの連続だという。『「ニッポン大好き」の秘密を解く』(中公新書ラクレ)を出版したジャーナリストの中島恵氏が、中国人が日本の電車マナーの何に驚いているのかをリポートする。
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これまでに数回来日経験のある、上海在住の50代の男性は「日本の電車内の静けさに文化の成熟度を感じる」と話す。
「中国でも、北京・上海などの都会ではスマホを使う人が増え、車内ではメールやSNSで済ませる人が増えていますが、まだ一部。出稼ぎの農民工はスマホは持っていても、あまり使い方がわからないので未だに車内で大声で電話していますよ」
また、「日本人は電車の中だけでなく、普段の話し声も小さくて、紳士的な感じがします」とも語る。「日本にいるときは周囲に合わせて小声で話すようになりました」と誇らしげだった。
経済発展を続けている中国の大都市では、公共交通機関のホームやバス停で、列に並んで待つ中国人も珍しくなくなった。しかし、そんな彼らも、さすがに「先発の電車」、「次発の電車」と、別々の列にキッチリ3列で整然と並ぶ日本人を見ると、「我々には、とうてい真似できない」と口を揃える。
日本に留学している友人を頼って個人旅行に挑んだ男子大学生は、「乗客を整理する駅の係員なども見当たらないのに、人々があんなに美しく整列するなんて!」と感動していた。ただホームに指示が書かれているだけなのに、きちんと並ぶ日本人の規範意識の高さに舌を巻く。
あらゆる階層の人々が入り乱れ、公共交通機関はいつもごった返している中国で、ここまでの整列が見られるのはいつの日になるだろう。
※SAPIO2015年6月号