肩こりは、同じ姿勢をとり続けたり、無理な姿勢で長時間パソコンに向かって仕事をすることで生まれる。筋肉が収縮した状態が続くと血流が悪くなり、そのうち筋肉そのものが固まってしまい、こりとなる。
これまでの治療では固まった筋肉をほぐし、血流をよくするために、マッサージや指圧など「筋肉を揉む」ことが重視されてきた。
仮に肩こりが「人生で一度だけの病」ならば、揉んで治すことも間違いとはいえない。しかし、ほとんどの人は肩こりに何年も苦しみ、その度に揉みほぐすというサイクルを重ねる。すると、筋膜に「しわ」ができてしまう。実はこの「しわ」こそが、いつまでも治らない肩こりの元凶だというのだ。
「筋膜は本来、どの部分も一定の密度ですが、それが特定の部分にギュッギュッと寄り集まると、その部分の水分が失われて粘着度が増します。つまり、なかなかほぐれなくなる。しつこい肩こりの多くはこれが原因だと思われます」(前出・竹井教授)
要は、揉めば揉むほど、筋膜にしわが寄り、長期的な肩こりの原因を増長させる危険があるというのだ。それゆえ、元凶である筋膜の寄り集まって厚く重なった部分をきれいに伸ばさない限り、抜本的な解決にはならないというのだ。
注射療法ではそれが可能となる。木村院長の考案した生理食塩水による「エコーガイド下腹膜リリース」は、この筋膜が厚く重なって癒着している部分に注射をする方法だ。
「筋膜の癒着している部分は、画像上、青白く帯状に見えます。この部分を生理食塩水で解放(リリース)すると、即座に痛みが改善します。この治療法は、生理食塩水を使うことから非常に安全です」(木村院長)
ピンポイントで水を注入することで、失った水分を補い、縮んだ筋膜を伸ばすことができる。生理食塩水を使うのは、人間の身体の成分に最も近く、副作用の心配がないからだ。
他にも利点がある。この治療法の特徴は、エコーを利用することで通常は見られないトリガーポイントを「可視化」できることだ。
「患者さんにも画像を見てもらうので、治療の効果を確認していただけます。筋膜リリースを受けるだけでは、また再発することがあります。そのため、日々の散歩やラジオ体操などの軽い運動が重要です」(木村院長)
注射治療を応用し、鍼治療の分野でもエコーが使われ始めている。これまでは施術者が経験と“勘”でこりの場所を探知してきたが、エコーを使うことで筋膜が厚くなっている部位を確認し、ピンポイントで鍼を打てるようになっているという。
今後はエコーを使った肩こり治療が常識となるかもしれない。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号