アジア女性基金では“贖罪意識”が旺盛だった村山左派政権でさえ、韓国側の掌返しに煮え湯をのまされた。安倍首相も日本の外務省も大メディアも十分承知のはずだ。すでに挺対協は「中身が抜けた会談」と否定的な反応を示し始めている。
それにもかかわらず、朴大統領のインタビューを掲載するなどした朝日、毎日以外の大メディアはなぜか、ダンマリを決め込んでいる。とくに朝日の慰安婦報道をあれほど厳しく批判してきた産経新聞が、「慰安婦 局長協議を加速」と報じただけでアジア女性基金復活の動きに“韓国に騙されるな”と声をあげないのは奇異に映る。
その背景に見え隠れしているのが朴大統領をコラムで名誉毀損したとして在宅起訴され、異例の懲役1年6か月を求刑されている産経新聞前ソウル支局長の判決を間近に控えていることだ。
安倍首相は首脳会談で前支局長起訴に「懸念と遺憾の意」を伝えたと報じられており、「官邸は慰安婦問題の妥結と前支局長の裁判終結をバーターにすることで、産経をはじめ保守派を抑えようとしているのではないか」(全国紙官邸担当記者)と見られているのだ。
慰安婦問題と朴政権の報道圧力問題は次元が違う。そのことで筆が鈍ったとすれば朴槿恵政権に阿(おもね)る朝日同様、言論機関の姿勢としてやはり情けないのである。
※週刊ポスト2015年11月20日号