パリ同時多発テロ事件について、日本人にとっては、「なぜフランスなのか」や「どんな背景があるのか」など、多くの疑問符が頭に浮かぶことだろう。いま私たちは、「教養」の欠如を思い知らされている。
『人生を面白くする本物の教養』(幻冬舎新書)がベストセラーとなっているライフネット生命会長兼CEOの出口治明氏と、「歴史探偵」として知られる作家・半藤一利氏が緊急対談、「教養なき国家」の行く末を案じた。
半藤:出口さんの最新刊『世界史の10人』(文藝春秋)の最初に出てくるのが中東のバイバルスという人です。
出口:エジプトの英雄、バイバルスは日本ではあまり知られていませんが、13世紀後半にエジプトとシリアを支配したアイユーブ朝に仕えた奴隷出身の軍人です。フランスの十字軍を蹴散らし、最強と謳われたモンゴル軍も破り、スルタン(君主)となった。17年の治世の間に、モンゴルとは9回、十字軍とは21回戦い、ことごとく勝利を収めたとされる戦争の天才。イスラム社会で知らない人はいません。
半藤:不勉強でお恥ずかしいですが、本の目次を見たら半分は知らない人で、出口さんの深い教養を見せつけられた気がしました。私は昭和5年生まれで、中学2年生までは確かに一生懸命、勉強していましたが、戦争が始まって勤労動員に行きましたから、それ以降、ほとんど西洋史の勉強をしなかったんです。
出口:半藤さんは謙遜されていますが、簡単にいえば、昔の教科書に載っていた西洋史や東洋史は、中国やドイツ、あるいは英米の学者が書いたものを翻訳したもので、彼らは中東にさほど興味がなく、バイバルスを誰も研究していなかった。また、中央アジアはソ連圏だったので、冷戦中は情報が出てこなかった。中東や中央アジアの情報が抜けていたのは仕方がありません。
半藤:そもそも、戦後の日本は、ろくに勉強してこなかった連中が、偉そうに引っ張ってきたというのが私の実感なんです。
私ら昭和一ケタ生まれの世代は、戦争によって勉強する機会を阻まれた世代。私らの下の世代、昭和10年代生まれの連中は、どうにもならないくらい“戦後民主主義の申し子”。アメリカの影響を受けまくっている。そして1960年安保で大暴れ。さらに、これは出口さんに怒られるのを承知でいいますが、出口さんたち昭和20年代生まれの人々は、いわゆる団塊の世代で、これがまた、なんていうか……。
出口:ボロクソにいっていただいて結構です(笑い)。