姻族関係終了届を出せるのは配偶者に先立たれた人間のみ。姑が出すことはできない。
嫁に与えられた奥の手、いわばジョーカーである。
《こんな届があるなんて、まったく知らなかった》
《衝撃的で言葉がでない》
同サイトの記事はネット上で大きな反響を呼んだ。A子さんが語る。
「私の周囲でもこの届の存在を知っている人は1人もいませんでした。区役所に行っても、職員さえわかっていない。たらい回しにされ、戸籍課でやっと用紙をもらえました。
姑に黙って提出した後、通告しました。“あなたはもう他人です”と。ポカンとした表情が忘れられない。届の意味を説明し、縁を切ったこと、扶養義務がないことを告げると、黙ってうなだれていました。翌週、あの人は郷里の滋賀県に帰って行きました。
“冷酷な女だ”と相手の親族からも罵られました。でも後悔はありません。同居を続けていれば、私はあの人を殺していたかもしれない」
姻族関係終了届には同居する姑を追い出す強制力はない。だが、嫁と他人になったという事実を前にして、なおも同居を選ぶ姑はいないという。嫁姑の縁切りはまた、“血の繋がり”を絶つものではない。姑とわが子、つまり祖母と孫の関係は変わらない。
「届を出した後、姑が亡くなった場合に遺産はどうなるか。夫はもういませんが、『代襲相続』といって、夫の分は子供が代わりに相続します。嫁からすれば、姑と他人になろうとも、その遺産はわが子にちゃんと入ってくるのです」(前出・加藤弁護士)
届はあくまで亡き夫の親族との関係を終わらせるもので、夫の遺族年金も嫁に入る。最新の国勢調査(2010年調べ)によれば、女性の有配偶者3192万人に対し、夫と死別した者は781万人。うち8%、62万人が60才までに夫を亡くしている。A子さんが訴える。
「姻族関係終了届をむやみにすすめるつもりはありません。残酷な書面であることは事実。
ただ、同じ境遇の人にこの届けの存在を知ってほしいのです。姑といがみ合う生活をしていれば、人としての情と、関係を絶ちたいという憎しみに誰もが揺れ動く。心身は疲弊し、新聞に載るような事件も珍しくない。
苦しい生活の中で、もしこの届を知っていれば、“私にはまだ最後の手段が残されている”という心の支えになる。最悪の結末を防ぐ防波堤になると思うのです」
届けの存在を姑が知れば、態度も変わるだろう。時代が移ろい、嫁姑関係も新たな局面を迎えている。
※女性セブン2016年1月7・14日号