片山杜秀氏(思想史研究者)が日本の現状を知り、過去に学び、未来を考えることができるという基準で読むべき本を選定した。
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過去の日本が豊かさを実現していたことは確かだ。そこで、〈過去の豊かさに学ぶ〉というテーマで2冊の本を選んだ。
その生きた教科書と言えるのが、御厨貴・橋本寿朗・鷲田清一編『わが記憶、わが記録 堤清二×辻井喬オーラルヒストリー』(中央公論新社)。西武流通グループの総帥にして作家だった堤清二=辻井喬(1927~2013)に、その人生について3人の学者が長時間インタビューした記録だ。
堤=辻井の一代記を通して戦後日本がバブル崩壊前まで持っていた豊かさを実感できるし、そこから今後に生かす何かを学ぶべきなのだと思わされる。
江戸期について考察したのがテツオ・ナジタ『相互扶助の経済 無尽講・報徳の民衆思想史』(みすず書房)。慢性的な飢饉に苦しめられていた江戸時代の民衆は、村ごとにいざというとき互いに助け合う無尽講など相互扶助の制度を発展させた。
そして、江戸末期、助け合いの実践として二宮尊徳らによって村を越えた報徳運動が起こり、それが明治以降の相互銀行へとつながっていった。国家による公助に期待できなくなりつつある今、江戸期に学ぶことは大きい。
※SAPIO2016年2月号