劉亜洲は昨年10月8日付の党機関紙「人民日報」で、尖閣諸島をめぐる問題に関して、ほぼ1面を費やした長大な論文を発表し、日本と中国が軍事衝突すれば「中国は勝つ以外に選択肢はなく、退路はない」と強調。もし、日本に敗北すれば体制を揺るがす事態に発展しかねないとの危機感を示唆したものとみられ「極力戦争を回避」すべきだと強く訴えた。
劉亜洲は軍内でも対日強硬派として知られているだけに、そのような劉が日本への武力行使反対を論じることで、軍事改革に抵抗し、好戦的な軍内保守派を抑えるとの狙いが透けて見えるようだ。
実際、劉亜洲は新華社通信のインタビューで、軍事改革について「中国の軍事改革に反対する声は我が軍内から上がっている。わが軍の一部の幹部は好戦的で、すぐに戦争をしなければならないと主張するが、我々が戦争に勝つために、まずは改革を進展させなければならない。改革を成功させるには、軍幹部が自らを犠牲にする覚悟がなければならない」と強調している。
前出の北京の外交筋は「軍内の対日強硬派は習近平が進める軍事改革に反対する勢力と重なり合っている。軍内では30万人の削減や陸軍主導の現在の7大軍区体制から中央軍事委主導の1戦略区司令部・4大戦区構想への移行に強い反発が生じている。軍事改革を成功させるために、習近平としては軍内の反日機運を抑える必要があるのだ」と指摘する。
しかし、軍内には、尖閣は中国にとっては絶対に譲れない「核心的利益」であるとして、「領土奪回」をことさらに主張する勢力も根強い。尖閣をめぐっては今後も予断を許さない状況が続く。
【PROFILE】1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「芽沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。
※SAPIO2016年3月号