警察が本腰を入れ始めたのは、もはや重大事件が避けられないと見込んでいるからだろう。報復は少しずつエスカレートする。暴力の終着地点は相手の死だ。殺人事件の発生が現実味を帯びてきたから、警察は多額の予算と人員を投入した。警察関係者の見立てはこうだ。
「警察の上層部が山口組取り締まりに本気になったのは、具体的な事件に対する『対策はしました』というアリバイ作りだけではない。予算を獲得しようというわけでもない。キャリアの発想は、暴力団が無軌道に事件を起こすのは、法秩序、市民社会に対する挑戦と受け止めているということだ。本音を言えば暴力団同士が殺し合ったところで被害法益はないと思っている。それよりも法治国家の中で堂々と私的暴力を振り回されれば、国家の面目が立たないということ」
折しも5月26日、27日は、三重県志摩市でサミットが開催される。分裂当初から警察の懸案事項とみられている国際行事だ。各国の要人が来日している時に、暴力団が抗争事件を起こしてしまったらメンツが潰れる。双方とも自粛の意向はあるだろうが、対立がここまで激化すれば、暴発する危険性はある。
ただし、警察には緊急の課題が残されている。神戸山口組の暴力団指定だ。暴対法は指定暴力団以外に適用できない。国家が暴力団と認めなければ、法の網を掛けられない。順当にいけば、今年の6月頃には、神戸山口組の指定が完了するとみられている。2月末に警察庁が山口組総数1万4100人、神戸山口組総数6100人(ともに準構成員込み)と確定しており、参考資料がほぼ揃ったことを窺わせる。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号