●その3-対立の構図を超えていく生き様

 このドラマは一貫して、「対立」の構図を超えていく、しなやかな生き方を描こうとしていたように感じる。

 事業を展開しようと強い意志をもってさまざまなチャレンジを試みるあさ。しかし、相手はなかなか受け入れてはくれない。銀行を切り盛りすれば「ろくでもないおなご」と言われ、女子大創設の寄付を集めて歩くと、「あんた誰や?」と軒先で冷たく追い返される。

 そんな時、あさは自分の正しさを言いつのって相手を言い負かしたり、論理でねじふせたりしなかった。

「そうですなー、そうですよねぇ、また来ます」と、いわば相手の気持ちに寄り添って一歩引く。自分の思いは時間をかけて理解してもらう。夫との関係も、娘との関係も、社会との関係も。こうした「しなやかな」姿が、『あさが来た』というドラマの中で繰り返し描き出された。

 強い相手を打倒することが勝利ではない。そうではなくて、強い相手を、味方につけてこそ勝利。対立の構図を作らずに、しかし流されるのではなく、自分の意志を貫いて生きていく。その姿こそ、視聴者への勇気付けになったのではないか。多くの人を惹きつけ続けた大きな理由の一つではないか。

 私はこのドラマを見ながらふと、禅の僧侶・仙涯が描いた「堪忍柳」という図を思い出した。ビュウビュウ吹きつける風に、しなやかに枝をなびかせる柳の大木。そこに「堪忍」という字。

「気に入らぬ風もあろふに柳哉」。そんな歌も添えられている絵図。吹き付ける風の中には耐え難い風もある。でも、しなやかであれば木は倒れない。柳は風を受け流し、幹はしっかりと立ち続ける。柔らかさと強さの象徴。

 私の中で「堪忍柳」の絵図が、あさと重なった。

 ──さて、4月4日から始まる『とと姉ちゃん』ではいったいどんな多彩な生き様が描かれるのだろうか。今度はどんな人生へのエールを見せてくれるのか。期待しよう。

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