◆弟子のしくじりが師匠を育てる

 談春に真相を確かめるため直撃すると、「おい! オレがどう考えてるって何についてだよ!」と激昂し始めた。記者が、こはるが『二人会』を休演して談春の独演会に出ていたことに関して師匠としてどう考えているか、と説明しても、

「おい、インフルエンザが仮病だっていいたいのか?」と怒りは収まらない。その後10分ほど押し問答を続けると、談春も冷静さを取り戻し、こう語った。

「オレにもわからないところもある。師匠としては、それなりのことはしたつもりだ」

 談春が言う「それなりのこと」とは、4月16日に行なわれた『こはる&ぴっかり☆二人会』の“お詫び公演”のことである。

「話し合いの結果、『二人会』に談春さんも出演して、お詫びに一席打つことになったんです」(前出・せいしょう亭関係者)

 公演当日、こはるに続いて登場した談春は「こはるの謝り方はなっちゃいない」「弟子のしくじりが師匠を育てる」とひとくさり。その後、間抜けな与太郎がしくじりを繰り返す「かぼちゃや」という噺を披露し、高座を降りる際には、舞台袖のこはるに羽織を投げつける暴れっぷりで、会場は大爆笑に包まれたというから、さすがというべきか。

 せいしょう亭にも顛末について聞いたが、「その件はカタがついたこと。ノーコメントです」と言う。

 真相はどうもわからないのだが、談春が弟子に厳しいのは談志譲り、あるいはそれ以上か。そういえば春風亭一之輔のCDで枕に、こはるの過剰なほどの礼儀正しさについて「やっぱり立川流は私らの一門とは違いますねェ」と驚き呆れるエピソードが録音されている。前出の落語関係者は言う。

「談春一門は弟子が逃げ出すほど厳しいことで有名です。談志がそうだったように、芸以前に、生活態度や師匠との接し方などで、何の気なしに言ったひと言、よかれと思ってしたことで激怒されることもある。常識からすると理不尽なことに、いまどきのゆとり世代は耐えられないでしょう。

 3年ほど前は7人いた弟子は、いまではこはるひとりです。そのこはるにしても、他の一門に比べはるかに長い前座修業をつとめようやく二ツ目になった。よく耐えて偉いですよ」

 談春の師匠・談志も弟子に対して苛烈だった。2002年には「意欲が感じられない」と前座6人を全員破門にした。また談春自身も「魚河岸で働いて、礼儀作法からみっちり身につけてこい!」という談志の突然の思いつきで、築地市場で1年間働かされた過去を持つ。

 談春がこはるにした仕打ちこそ立川流の「本寸法」なのかもしれない。

 落語の世界には「師匠選びも芸のうち」という言葉がある。こはるは談春を芸の糧とできるか──。

※週刊ポスト2016年5月20日号

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