私はタクシーに飛び乗り、まず六本木にある田中選対に向かう。今次参院選挙は静かな戦いであった。舛添前都知事の辞職に伴う東京都知事選挙の話題が、参院選挙中にもかかわらず広く耳目を集めた。マスメディアの関心は小池vs増田の「保保分裂選挙」に終始していた。一言でいえば今夏の参院選は地味の選挙である。
しかし、当選すれば議員様、落選すればただの人。私はその明暗のドラマを、東京選挙区の最後の6議席目に求めたのだ。タクシーのメーターと比例するように、NHKの開票速報は更新され、当初田中優勢だったはずだが小川との差がどんどんと開いていく。
午後11時20分、田中選対は報道陣が詰めかける中、奇妙な静寂に包まれていた。本人不在で少人数のスタッフがホワイトボードに10分単位で得票を書き込んでいるが、いかんせん厳しい。6議席目は小川の可能性濃厚と判断した私は、ためらうことなく氏の歌舞伎町にある選対に向かった。
時刻は午後11時45分。日付が変わろうとしている真夜中の小川選対は、異様な熱気で包み込まれていた(後編に続く)。
●ふるや・つねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争』『左翼も右翼もウソばかり』。近著に『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。
※SAPIO2016年9月号