例えば、要人の不正蓄財や生活の乱れに関する噂話は、後で別ルートで追跡すると事実で、しかも、権力闘争を反映して特定勢力が流している場合が多い。また、このような人々を通じて日本の政府機関が文書の入手を依頼することがある。
日本ならば、一般書店で『国会便覧』を購入すれば、国会議員の役職、連絡先、家族構成に関する情報のみならず顔写真も入手できる。また、各省庁のHPを閲覧すれば、組織の構成図や幹部名簿を簡単に入手することができる。中国で、これらの情報が掲載された便覧は、秘密文書に指定されている。
しかし、中国人の新聞記者や学者でもこのような便覧を入手している人は少なからずいる。そこで少しカネをはずんでこの種の便覧や政府や共産党の内部資料を購入することは、インテリジェンスを担当する日本の政府機関は公然と行っていた。共産党要人が友情の印としてこのような資料を渡してくれることもある。
さらに、中国で、北朝鮮の情報を入手することは、日本だけでなく、米国、英国、ロシアなどのインテリジェンス機関も日常的に行っている。その中には、エージェント(工作員)を北朝鮮に送り込んで情報を入手するような危険な活動も含まれている。
このような活動は、法的にグレーゾーンであるが、従来は、中国の国益を大きく毀損することはないので、見逃すか、あるいは拘束しても発表せず、裏で日本外務省に「こういうことは困る」と通報し、当該日本人を国外追放にしていた。
2~3年前から中国当局の法の適用ラインが厳密化され、これまでグレーゾーンでお目こぼしされていた部分が、摘発されるようになってきた。恐らくカウンターインテリジェンス(防諜)部門の近代化が行われているからであろう。
日本政府がいくら非難しても中国は今後もスパイ容疑で日本人を拘束するであろう。こういう事件が発生した場合は、問題を表面化させずインテリジェンス機関のリエゾン(連絡係)を通じてプロフェッショナリズムに基づいて裏で処理するのが国際常識なのだが、日本には対外インテリジェンス機関が存在しないので、それもできない。
当面は、外務省でインテリジェンス能力の高い外交官を北京の日本大使館に常駐させ、リエゾンを務めさせるしか術がない。
※SAPIO2016年10月号