「遺伝子は努力で変えられるものではありません。異常があっても、がんにならない人もいます。必要以上に不安を感じるとか、自責の念を抱く必要もない。逆に、事前に知ることで、予防を考えることができます」
東京都在住の会社員・松田佐知子さん(仮名、36才)は「陽性だとわかって、はじめてがんになった自分を許すことができた」と打ち明ける。
「検診も受けて、生活にも人一倍気をつけていたはずなのに、乳がんになってしまった。ずっと、私の生活習慣のどこかに落ち度があったせいだ、検診にもっとこまめに行かなかったせいだと自分を責め続けていたけれど、遺伝だから自分の努力ではどうしようもなかったんだとわかって、少しだけ楽になりました」
それに、陽性だとわかることで、ホルモン剤を予防的に使ったり、乳がんの手術の際、温存か摘出かを選ぶときに、再発に備えて摘出を選ぶなど、治療の手立てを先回りして考えることもできる。
しかし、そのようなメリットがあるにもかかわらず、遺伝子検査が怖いものだというイメージが抜けない理由には、「結婚や就労の差別」「遺伝子情報の流出」といった繊細な問題をはらむからだ。島田さんは、「日本の法整備は遅れている」と指摘する。
「欧米ではほとんどの国で、遺伝子情報によって保険や就職で不利益や差別を受けないと定めた法律がありますが、日本にはまだありません。今は、社会通念上、そういった差別的なことは聞いてはいけないとなっていますが、たとえ聞いたとしても恐らく法律問題にはなりません。遺伝子以前の問題ですが、大きな病歴があるときに何の病気か聞かれ、がんだと答えると、特に非正規雇用のかたは採用されないということは現実問題としてあります」(島田さん)
正しい情報が広まらず、“家族ががんだから、がんになった”という言葉が独り歩きする。結果、本人も家族も人知れず苦しみを抱えて生きることにつながっている。
※女性セブン2016年11月10日号