「うーん、着たくないわけでもないし、何がなんでも着たいわけでもない。僕の中で心が動かないとダメでしょうね。監督やコーチの能力には、選手の生活もかかっているので、生半可な気持ちで着たいとは思っていません。
どんな監督になりたいか、というのは今はないんです。今はプロ・アマ問わず野球を観たり、園児を教えているから、そこから色んなものを吸収して、来たるべき時に生かせればいいと思っています。タイミングが合ったり、心が動かされたりした時のために、引き出しを増やしておきたい。たとえ将来的に監督やコーチができなくても、それはそれでいいと思っています」
彼が実際に監督になると、その堅実なプレースタイルからは想像できない面白い野球をするかもしれない。宮本は今年から自分の名前を冠する小学生の軟式野球大会をスタートさせたが、その大会はなんと「バント禁止」。実はこれ、宮本自身の意向だ。
「今の少年野球はバントや待てのサインがすごく多いんです。勝ちにこだわっているんですね。もちろんそれ自体は悪いことじゃないけど、やっぱり野球は振ってナンボじゃないですか。
確かに僕は現役時代、400個以上バントしました。でも僕だって本当は打ちたかったですよ。そんな僕がいうんだから説得力あるでしょう?(笑い)だから僕の大会ぐらいは強く振る、思い切って投げるという野球をやってほしいんです。だってその方が面白いから。子供たちにはそうやって、野球の面白さを知ってほしいんです」
野球をやりたいと思う子供たちを1人でも増やすことが野球界への恩返し─そう信じて、宮本は今日も活動を続けている。
●みやもと・しんや/1970年、大阪府生まれ。PL学園高から同志社大、プリンスホテルを経て1994年ドラフト2位(逆指名)でヤクルトに入団。2001年のシーズン67犠打はプロ野球記録。遊撃手と三塁手でゴールデングラブ賞を計10度獲得。アテネ、北京の両五輪で日本代表主将、日本プロ野球選手会の選手会長も務めた。2013年に現役を引退。生涯成績は実働19年、打率.282(2133安打)、62本塁打、408犠打。
■撮影/藤岡雅樹 ■取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2016年11月18日号