「勝先生にはフジテレビの控え室でお会いしました。僕をジッと見た後『お前、京都に来れるか』といきなり言われて。こちらとしては役をもらえると思っていました。でも、違った。
京都に行ってみたら勝先生は撮影を中断してカメラテストをしてくれました。『カメラの前に立って、今から俺の言う芝居をやってみろ』と。その後は、『しばらく俺の側で現場を見てろ』と言われたので、そうしました。
先生としては『俺やゲストの芝居を見て勉強しろ』という意図だったんだと思います。『引き出しの多い奴の勝ちだ。そのためには、いろんなものに興味をもって、いろんなものを見ておけ』と言われていましたから。
ある時は、『一つの役を五人の役者で演じてみろ』と指示されたことがあります。『この役者が演じたら、この役はこうなる』というのを五人分。『お前の好きな歌手でもなんでもいい。その五人の中で気に入ったやつでやってみろ。芝居は、まずは真似からだ』ということでした。
勝先生には半年付いていました。ホテルもとってくれまして。勉強にはなりましたが、でも結局は、役がもらえないんですよね。ですから、仕事がない。『どうなってるのかな』と思いながら毎日を過ごしていました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年11月25日号