彼女が覚せい剤にハマってしまたのは、よく言われるような過労の身体をごまかすためでも、ぼんやりとした多幸感を味わうためでもなく、異性との快楽から逃れられなくなったからだった。その結果、家庭は崩壊。来年からは小学生だという子を持つ一児の母親なので、当然このままではいけないという危機感も持っていると涙を流しながら言うのだが、一度知ってしまった快楽から逃れられないとも訴える。
「覚せい剤を使って男性と関係をもちたいあまりに、覚せい剤をくれる人であれば相手は誰でもいいと思うようになりました。旦那とは離婚し、子供は実家に預けて、現在は風俗の仕事をしています。覚せい剤、止められるものならやめたいのですが、生活費や子どもの教育費を考えると治療のために私が施設に入るわけにもいかず、どうしていいかわからない」
彼女は、久々に子供と過ごしたある日にでさえも、覚せい剤をくれるという男性から連絡があり、寝かせつけた子供の真横で行為に及んだ。終わったときはあまりの情けなさからパニックに陥ったが、数日後には再び快楽を求めてその男性に再会した。
もちろん、その気持ちよさにハマるのは女性だけではない。男性も同じだ。いわゆる「半グレ」であり、広域指定暴力団とも近しい男性(33)は、自身は「シャブ(覚せい剤)なんて絶対にやらない」と前置きした上で、覚せい剤の恐ろしい「有効活用」の方法を解説する。
「以前、金銭で揉めたサラリーマンの男をさらってきて、金を返すように締め上げたんですが、ないものは返せないといわれて困っていたんです。男を漬物(覚せい剤中毒)にすれば、金になるシノギ(仕事)をさせられるんじゃないか、ということで、男に致死量に近いシャブを打って自慰をさせた。それからはシャブ欲しさに、こっちが指示するがままに犯罪でもなんでもやるようになりました。
ニセのパチンコ景品を換金するという危ないシノギもガンガンこなして、借金返済後も、シャブを買うためにすすんで盗みや詐欺を繰り返した」
覚せい剤の所持と使用で2年前に検挙されたキャバクラ嬢の女性(29)は、覚せい剤の恐ろしさをしりつつ、機会があればまた是非とも使用したいといってはばからない。
「体の関係があった太客(金持ちの客)と経験してハマりました。当時働いていたお店の同僚の女の子が警察にタレ込んだらしく、警察に所持品検査され捕まりました。矯正施設にも通い、売人含め、当時付き合いのあった人たちとは全て関係を切らせられました。でも、施設で知り合った女性と密かに連絡先を交換しているから、クスリはすぐ手に入る状態。今は執行猶予中だからやんないけど、猶予期間が終わったらすぐにでも買っちゃうと思う。覚せい剤を使わない性行為では何も感じなくなってしまったんで……」
薬物で逮捕された人間はたいてい、警察の取り調べで「家族がいなくなって寂しかった」「仕事がうまくいかずストレスだった」などと理由を述べる。そして、それを事件として報じるニュースでは、彼らの表向きの供述がそのまま報じられる。しかし直接、薬物常用者に会い本音をさぐると、ほぼ全員が性的な快楽が病みつきになったためと打ち明けるのだ。
警察の取り調べでも正直に言いづらいような理由で覚せい剤を辞められない人たちが、完全にクスリを辞められる日はくるのか。自らも覚せい剤の所持や使用、密売などで何度も逮捕された経験を持つ、元暴力団関係者の男性(56)は断言する。
「ASKAみたいに金も時間も名声もある男が、一回でもやればそりゃハマって当然なんですよ。シャブ使えば性行為はとんでもなく変態的になる。シャブで意識が飛ぶなんてことはないので、その変態的な自分を思い出しただけで興奮するようになる。だからシャブ買う金がなくなれば、犯罪でもなんでもするでしょう。
シャブから足を洗ったという連中のうち、果たして何人が本当にシャブ断ちできてるか。生活とか仕事があるからやってないだけで、本当は今すぐにでもやりたいに決まっている。防ぐ方法なんて、まあ、最初の一回をやんないことでしょう」
これまで取材したなかで「危険ドラッグなら大丈夫。いつでもやめられる」と言っていた常用者は多くいた。しかし、そのうちの少なくない人が覚せい剤を使うようになり、繰り返し逮捕され、治療のための病院やリハビリ施設に入ってもやめられずにいる。一度やったらやめられない、という言葉の重みを、今一度考えてみたい。