ライフ

発達障害の大学生増加 放置したままでいいわけがない

多様化する大学生をどう受け止めるか(写真:アフロ)

「多様化社会」という言葉はそれを支える制度がなくては意味が無い。とある大学教員のブログから、コラムニストののオバタカズユキ氏が大学生の「多様化」を考える。

 * * *
 特定個人を責める意図はないので、某教員の某ブログにて、と記すにとどめる。先日、そのブログにこんなことが書かれてあった。

 ブログ主は大学教員。大学の授業で学生にミニレポートを書かせ、それを出席票のかわりにしていた。するとある日、中身も筆跡もそっくりなミニレポートが複数枚出されていることに気づいた。

 これは明らかに「代返」だ。一番たくさんの文字数を書いた太郎君が、二郎君、三郎君、四郎君のものも書いて、そしらぬ顔で自分に提出したのだろうと思った。

 次の授業で、そっくりレポートの「提出者」たちに尋ねてみると、教員の読みはアタリ。「提出者」たちはその行為を認めたと言う。それが不正行為であることを教員が説明すると、二郎君以下はきまりの悪そうな顔をしていたとのことだ。

 ところが、太郎君ひとりは反論した。「みんなやっているし、他の先生に叱られたこともない」というふうに。教員が、「だからいいという問題ではない。これは不正行為で、学問の世界では問題外だし、出欠を誤魔化したことは教員の私を欺いたことになる」とていねいに諭したら、「初めて教えてもらえた」と礼を言われた。

 問題はその先で、「だから、このときの出席は取り消しになる」と教員が学生たちに伝えたところ、それまで“ありがとうモード”だった太郎君が、急に「なぜ?」と食い下がってきた。「不正行為だから」と言っても、「知らなかったことで罰せられるのはおかしい」と反論してきたという。

 以上は、元のブログの文を多少アレンジしたものだが、大筋こんなことがおきたらしい。そして、教員は、最後まで納得しなかった太郎君について考えながら、善悪の区別のつかない学生の登場を嘆いていた。人に相対する態度は礼儀正しいのに、常識が通じない。それは、コミュ力の発揮と自己主張の仕方ばかりを形式的に教えてきた大人側の問題なのではないか、と。

 このブログのエントリーは、SNSでけっこう拡散し、私の目にも止まることとなった。読んだ人の多くは、「大学の劣化もここまで来たか……」というもの。日本の今の首相の名前を知らない、分数の四則算ができない大学生が増えている……といったお決まりの大学生バカネタと同じ水準で、呆れかえっていた読み手が大半であった。

 が、ブログのコメント欄で勤務医と称する人が、「この太郎君の様子はアスペルガー症候群の症状に当てはまる。早期の受診を薦める」といった内容を書きこんでいた。私も素人ながら、この話は、発達障害の観点から考えたほうがいいと思った。

 太郎くんの問題は、コニュ力や自己主張の教育云々以前の話だし、いまどきの大学生が劣化しているというよりも、ここまで多様化している、と捉えたほうがベターではないか。多様化した大学生の中には、多様な特性をもつ発達障害者が含まれるのだ。

 発達障害をもつ人が増えている、と言われて久しい。原因は、諸説あってまだよく分らない。はっきりしているのは、昔だったら「変人」とか「ダメなやつ」とかで片づけられていた人々(子供たち)が、幼稚園・保育園、小中学校の先生から検査を勧められ、発達に偏りやでこぼこがある、と指摘されるケースがだいぶ前から急増している事実である。潜在していた発達障害が顕在化してきた、という話だ。

 そのこと自体の是非は置く。ただ、とても問題なのは、そうした検査をし、ときには専門医が診断を下したりしても、発達に問題があると言われた当人やその親のフォロー体制が、いまだにほとんど確立していないことだ。障害の有無がわかっても、障害をフォローする社会側のシステムがなきに等しい。

 今回、読ませてもらったブログ主は、「発達障害ではないか」という読者からの指摘を受け、その方面について取り急ぎ勉強をした様子である。でも、じゃあ、どうしたらいいかという段で頭を抱えていることだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

岡田監督
【記事から消えた「お~ん」】阪神・岡田監督が囲み取材再開も、記者の“録音自粛”で「そらそうよ」や関西弁など各紙共通の表現が消滅
NEWSポストセブン
成田きんさんの息子・幸男さん
【きんさん・ぎんさん】成田きんさんの息子・幸男さんは93歳 長寿の秘訣は「洒落っ気、色っ気、食いっ気です」
週刊ポスト
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン