当初の予定では縁側の上だけで展開される予定だったので、カメラがそのままの準備しかしていなかったら緒形と真行寺はフレームから外れてしまい、せっかくの熱演がNGになる。だが、森田は五社の演出とそれを聞いている緒形の表情を見ているうちに、フレームから外れることを予感していた。そのため、カメラを自在に動かせる状態で構え、見事に映像として収めてのけた。
気遣いの監督と、支えるスタッフ、そして意気に感じる役者たち。全ての熱い想いの結晶が、女優たちの輝きとなって放たれていたのである。
【プロフィール】かすがたいち/1977年、東京都生まれ。時代劇・映画史研究科。著書に『なぜ時代劇は滅びるのか』『鬼才 五社英雄の生涯』『役者は一日にしてならず』などがある。新刊に『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』(文春文庫)が発売中。
※週刊ポスト2017年10月13・20日号